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(9)解体が進まない いらだち募る被災住民
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 木造二階建ての自宅は、一階の柱や梁(はり)が折れ、隣のマンションにもたれかかっている。マンションの逆方向からは、木造二階建てがかぶさってくる。家は傾いたまま、両方から挟まれ、身動きが取れない。

 「全壊」の判定を受けた神戸市東灘区の会社員Aさん(四六)は、三月八日、区役所で解体を申し込んだ。約一カ月前にもらった整理券の順がやっと回ってきた。

 「窓をふさいでしまっているマンションの住人から『業者に頼んででも早く撤去して』といわれている。早くお願いしたい」。訴えに職員の口調は丁寧だったが、中身はがっかりさせるものだった。「家屋の現場調査をしてからまた連絡します。解体が一カ月先か一年先か、分かりません」

 同市の解体には、固定資産税の評価証明書などのほか「関係住民等の同意書」がいる。Aさんの場合、同意書は周囲の四棟分。マンションは催促されているから容易だが、自宅にもたれかかっている隣が大変だ。

 「解体すれば、その家が倒れる。でも住民の男性がいない。入院しているそうだが、連絡先が分からない。こっちだって困っている」。母親(七五)と二人で暮らし、姉の家に身を寄せる。震災後、仕事場は明石に変わった。高齢の母に手続きは任せられない。その度に会社を休まなければならない。

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 手続きに時間と手間がかかる。それなのに、申し込んでも解体着工のめどすら示してくれない。そんな不満が被災者にはある。神戸市への解体申し込みは、三月十一日現在で、三万七千七百二十一件。「とにかく量が膨大で」と市災害廃棄物対策室は言う。

 自治体が、業者に撤去させる方法に加え、神戸、西宮、芦屋市は、市、業者、建物所有者が契約を結んで解体・撤去する「三者契約制度」を始めた。神戸市は、被災者が業者を選ぶが、費用は市が業者に払うシステムで、二月二十日、三宮のサンパルビル五階に設けた廃棄物対策室分室で受け付けをスタートさせた。

 「新しい家を早く建てたい」「隣から苦情をいわれている」。少なくとも着工のめどは立つ、費用の心配はない、などの理由で初日から解体を急ぐ被災者が殺到した。

 だが、処理できるのは一日五十から七十件。窓口では三者契約の日を指定されるが、今では約三カ月先になる。今月初めは一カ月先だったから、十日余りで二カ月延びた勘定だ。

 県立神戸生活科学センターには、直接、業者に頼もうとする被災者から問い合わせが続く。この業者は信用できるか、値段の相場はどうか、と聞いてくる。店舗兼住宅の被災者らは、「三者契約の三カ月先」でも、とても待つ余裕はないからだ。「民間契約は控えてほしい」。そんな市の要請は机上の話としか受け取れない。

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 路地沿いのAさんの家の周辺十軒は、まだ解体されないまま残っている。「住宅施策は流動的で解体後、どうするかも決めかねている。行政はもう少し何とかできないのか。まず、解体なのに」。Aさんは、町の復興を告げるニュースを複雑な思いで聞くという。

1995/3/15

 

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