連載・特集 連載・特集 プレミアムボックス

(14)ブローカー走る 土地買い占めに警戒感
  • 印刷

 「地元の業者は買う余裕がないだろう。絶好の機会だよ」。兵庫県外から被災地に入ってきた不動産ブローカーがまくしたてた。

 震災以来、すでに三回、神戸を訪れた。毎回、キャンピングカーで四、五日間寝泊まりし、不動産物件を探す。神戸地裁で行われた競売にも参加した。

 「復興で被災地にはカネが落ちる。三宮は容積率が上がり、例のない規模の区画整理が進む。住む環境も、商売の環境も良くなり、土地の収益性が上がる。区画整理の土地は宝だ。短期的に地価は下がってもいずれは上がる。十年ぐらい待つことになるかもしれないが、地価が上がらなければ復興はできない」

 火災の被害が大きかった長田区で、地元業者を訪ねたら追い払われた、と苦笑しながら「長田は一等地でも坪三百万円と聞いた。土地を手に入れたい」とも付け加えた。

    ◆

 十七日に開かれた神戸市会建設消防委員会。論議の中心は、市が計画決定した区画整理や市街地再開発事業だったが、こんなやりとりがあった。

 委員 黒塗りの車が札束を持って土地を買いあさっているという情報があるがどうか。  

 市側 確かに地域に入っている話は聞いている。投機的な土地の置収で、無秩序な開発につながりかねない。良好な住環境の整備にも支障が出てくる。

 この後、市は新長田、六甲道など街づくり対象区域で、市に対する住民の土地買い取り要望が、四百六十三件にのぼることを明らかにした。

 家を失い、残された資産は土地という被災者は少なくない。数字は、民間同士の売買の素地があることを裏付けた。

 国土庁と兵庫県は、被災地での投機的な土地売買を懸念し、地価監視の強化を決めている。月一回だった買い主へのアンケート調査を増やし、実勢価格の把握に努めるという。 

 県土地政策局指導室の尾上文恵課長補佐は「地価監視区域を設定し、突出した価格の取引は、契約内容を審査することも検討している」と話す。

 バブル時代の地価高騰を抑制するため、県や神戸市が設けた地価監視区域は、昨年十月に解除されたばかりだ。

    ◆

 ようやくぽつぽつと店が開き始めた神戸・三宮の繁華街。三月中旬、携帯電話を手にしたダブルのスーツ姿の男が、飲食店の経営者に声をかけた。

 「いい物件は出てませんか」「まだ出てへん。値下がりもしてない。動きはないで」

 繁華街では今、ビルの解体が進む。立ち去る男を見ながら経営者は「買い手はいくらでも出てくるやろな」とつぶやいた。

 被災地の不動産市場は、休眠状態にあるという。昨年十二月、百七十三戸あった兵庫県内の中古マンション契約戸数は二月、九十八戸にとどまった。大手マンション会社によると、西宮、芦屋市、神戸市東部で、二月に新築されたマンションは一件もなかった。

 「それでも半年をすぎれば物件は出てくる」と神戸の不動産会社社長はこうも話した。  

 「中小業者には土地を買う力はない。復興にはカネとスピードが必要だ。それができるのは大手デベロッパーとゼネコンぐらいしかないのではないか」

1995/3/20

 

天気(9月7日)

  • 33℃
  • ---℃
  • 20%

  • 37℃
  • ---℃
  • 40%

  • 35℃
  • ---℃
  • 20%

  • 35℃
  • ---℃
  • 30%

お知らせ