神戸市灘区の国道43号線沿い。大石南町の空き地に、真新しい平屋のプレハブ住宅が建った。五棟が並び、一番広いものは百七十平方メートルある。計五百万の費用は町内会費でまかなった。
古くからの木造が広がる同町は、四百三十世帯のうち約八割が全半壊の被害を受けた。仮設店舗用のテントを町内の食堂に提供したり、当番で避難所の炊き出しを手伝ったり。被災後、住民らは互助活動を続けてきたが、町内会住宅建設は、その延長線上にある。
「行政の保護に頼り切ったままでは、被災者の生活再建は遅れる。市の負担を軽くして、地域復興を進めたい。できることは自分たちで実行し、毅(き)然と行政に注文を出したい」と町内会長の日笠徹雄さん(60)。住宅では、三、四十人が共同生活する予定だ。
震災からもうすぐ二カ月。遅れがちな県市の仮設住宅を待ち切れない被災者が、仮の住居を建てる動きが広がる。自分の街に住みたいという思いが、動きに拍車をかける。
腕を持つ人は自分の力で、あるいは大工さんに依頼して。町や市場、商店街単位の取り組みも出始めている。
神戸市垂水区の建設会社は、ツーバイフォー工法の箱型仮設住宅を売り出した。広さ一三・五平方メートル。ユニットバスや水洗トイレ、キチンを備え、運送、配管工事込みで約二百万円。
経営者は「避難所などで生活を送る人から注文が殺到し、七割以上は現金払い。客は『とにかく急いでほしい』と疲れ切った表情で訴える」と言う。
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三月四日、貝原知事と笹山神戸市長は、来県した五十嵐官房長官に国の支援要請文を手渡した。自力で仮設を建てる被災者への国庫補助創設も含まれていた。
「少しでも早く仮設住宅の必要数を満たすには、住民の力に頼らざるを得ない。建設費の一部補助なら、行政側の負担も軽減できる」と神戸市住宅局。
だが、国の対応は冷めている。仮設住宅担当の厚生省保護課は「災害救助法は、自分の資力で住宅を建てられない人だけが補助の対象。一部負担ができる人は資力があるわけだから補助の対象外と言わざるを得ない」とにべもない。
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住民主導のまちづくり先進地として知られる長田区真野地区。約四百人が避難所で暮らす同地区で、貨物コンテナを仮設住宅や店舗に改造し「仮設市街地」をつくるユニークな試みが進んでいる。
まずモデルの二基を駐車場に建設。計画したボランティアグループ代表の濱田甚三郎さんは、窓枠のサッシを組み立てる手を休め、日焼け顔で話す。
「被災者が街を離れコミュニティーが崩壊しては、住民主導の地域復興が難しくなる。コンテナなら費用が安く、敷地が狭くてもいい。住民が地元に残れる手立てが必要なんです」
自分で仮設をつくるのはいい。しかし、戦後長く続いたような危険な地区や家が残る可能性がある。 神戸大学住宅復興チームの児玉善郎技官は「行政は被災者への直接補助よりも、コミュニティーの発展に結び付く住民組織による仮設住宅建設を支援するべきだ。それも急ぐ必要がある」と指摘した。
1995/3/13