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(15)土地が動いた 境界定まらず混乱拍車
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 土地は、幅三十センチも広がっていた。二月半ば、測量した土地家屋調査士は「ざっと面積にして五平方メートル」と、依頼主の大学職員(五一)に告げた。

 震災で大きな被害を受けた西宮市仁川町。大学職員宅は、仁川堤防の斜面を造成し、階段状になっている。その上の「階段部分」には母親が住む。

 二軒の土地は昨年二月に亡くなった父親名義で、一筆で登記されている。分筆相続のため、測量・登記を依頼した。十二月下旬に作業はほぼ完了。登記まで、書類上の手続を残すのみになっていた。

 震災はその矢先に起きた。影響で地盤がひずんだ。幅三十センチ分は、周囲の道路か、道路を挟んで北にある仁川河川敷から取り込んだことになる。だが、そのまま敷地に取り込んでいいのか、元の面積しか認めないのか。法務省の方針は決まらず、新しい名義の登記はストップしたままだ。

 大学職員宅には、大量の土砂が上から流れ込んでいる。業者の除去費用見積もりは約一千万円、銀行に融資を申し込んだが「故人の土地は担保にできない」と断られ、「危険な状態なのに、そのまま放置しろということですか」と妻は憤慨した口ぶりだ。

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 兵庫県土地家屋調査士会には、市民から宅地の境界復元の依頼が殺到している。同会神戸支部長の藤原光栄さん(四八)は「被災者もまだ当面の生活に追われているのでしょうが、家の再建に入ると、境界をめぐるトラブルは増えてくるだろう」と言う。

 調査士は、法務局に土地登記をする際、所有者の依頼を受けて境界を測定する。地割れや陥没などで形が変わった場合は、登記上の公図通りに復元するのが原則だ。

 しかし、震災による土地移動はあまりにも広範囲で規模が大きい。上地そのものが動き、上地に打ち込んでいる赤いマークの境界標識が動いた。古くからの下町などには、標識そのものがないところも多い。

 同会は、想定されるさまざまな問題について協議を重ねている。だが、「公図に戻すのか、現状を追認するのか」という先に紹介した問題を抜きに対応は進まない。

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 「道路と境界にブロック塀を建てたいが、どうしたら」という相談に、神戸市土木局は「とりあえず家を先に立て、その後でブロックを積んでほしい」と回答。西宮市土木局は「住宅建設で相談に来る人には、とりあえずややこしい境界部分を避け、土地の真ん中だけを使ってほしいと要請している」と説明する。

 被災地の、あるマンション建設予定地は、全体的に四、五センチ、ねじれたように移動していた。敷地の外周に打ったばかりの境界標識も動いていた。周囲は道路と民間宅地に接している。法務局の公図を基にしようにも当てはめようがない。マンション事業主から相談を受けた調査士は再測量し、対処の仕方を検討した。「元の境界標識を百パーセント正確に割り出すのは不可能。関係者全員が納得いく方法で決めるしかない」。調査士は今、予定地と宅地の境界線に残った擁壁を基準に、元の形状に戻すことを提案している。擁壁が動いているのは事実だが、それを基準にする以外にはない、というのだ。

1995/3/23
 

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