「検討中だが、全市的に取り入れるにはかなりの年数がかかる」
五月十六日。神戸市会住宅水道委員会で、耐震継ぎ手の積極導入を求めた委員に、市側が答弁した。「かなりの年数」には、すべては無理というニュアンスがこもっていた。
神戸では、市内全六十五万世帯が断水。神戸市中央区小野浜町など最後の復旧は、震災からちょうど三カ月後の四月十七日だった。
神戸の水は淀川から市内の配水池にいったんため、幹線の配水管から給水管を通って家庭に送る。職員は、地中の音で破損を確かめ、一つ一つ修理した。破損は配水管二千百カ所、給水管七万カ所以上。多くは継ぎ目がやられた。
耐震継ぎ手は、その接続部に伸縮性がある。五センチほどの「遊び」にすぎないが、固定継ぎ手と違い、強い揺れを吸収できた。六甲アイランドなど導入地域は、通水試験だけで給水が可能になった。
震災後、学者らの調査で、有効性が再確認され、厚生省は、全国の都道府県に、必要性を通達している。
しかし、総延長約四千キロに達する配水管で、整備はわずか六%。市水道局の長瀬弘二庶務課長は話す。
「導入にはあらためて掘り返す必要がある。工事費も割高になる。当面、重点整備地区を設け、壊れない拠点をつくるしかない。そうすれば、被災しても全体の復旧は容易になる」
厚生省は、耐震継ぎ手に補助する考えだが、自治体もまた、巨額な負担を強いられる。どこに、どの程度整備するか。三月に発足した学識経験者らの市水道検討委員会は、近く答申をまとめるという。
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断水 百二十五万戸
停電 二百六十万戸
ガス停止 八十三万戸
電話不通 四十七万回線
都市の生命線を絶った地震の対策は、国、自治体、各社が検討中だ。
【大阪ガス】
全家庭にガスが届いたのは四月十一日。二次災害防止から、地域ごとに供給停止し、修復したが、停止ブロックを五十五から百程度に細分化する方針。
【NTT】
八百億円を投じ、五年計画で災害に強い通信基盤の整備を目指す。電話回線の地中化と光ファイバー化が柱になる。
【関西電力】
配電盤、電線など耐震性の高い施設整備を被災地だけではなく、全エリアで検討中。
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「ライフライン確保へ、共同溝の整備を可能な限り進めたい」と、兵庫県復興対策室は話す。
共同溝は水道や電気などの配管、配線をまとめて収容する地下トンネル。その規模から、幹線道路しか敷設できないが、耐震性にすぐれ、保守点検も掘り返さずにできる。
兵庫県内では、尼崎の国道2号線地下など総延長約十四キロで整備、神戸・ハーバーランド近くの同線約五・八キロでも工事が進む。県は、阪神間で南北方向にも整備し、ネットワーク化を検討、六月中には具体化させたいという。
だが、費用はキロ三十億円を超し、二車線のトンネル整備を上回る。半分以上を負担する各社はコストに二の足を踏む。整備には、それぞれの思惑が絡む。
どうライフラインを守るか。いずれの手法にしても、当面は拠点整備、と各自治体、各社は口をそろえる。震災は、安全への投資とその負担を都市に問い掛けている。
1995/5/29