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(18)密集地の再生 共同建て替え支援必要
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 「魚崎北町五丁目プロジェクト」と書かれた資料には、約五十世帯が共同建て替えで一つのマンションを建設した場合の試算が書かれていた。

 住宅の一部は、住民以外に分譲して、各戸負担を軽減させる。六十平方メートルの土地所有者が九十平方メートルの住居を確保したケースは、自己負担約四百三十万円とある。

 五月二十七日夜、神戸市東灘区、市立魚崎小学校の大テントに、震災後の火災で家屋が焼失した魚崎北町の住民らが集まった。

 火災保険の請求問題など本来の議題が一段落したのを見計らって、「関西建築家ボランティア」の野崎隆一さん(51)が、資料を配り、説明した。

 「大きくまとまれば個人負担が少なくなる。地区全体で住みやすい環境をつくることを考えてほしい」

 魚崎地区は八割近くの家屋が全半壊した。無秩序な再建を避け、住民本位の街づくりを進めようと、野崎さんらは支援活動を続けている。

 「五丁目プロジェクト」のほか、地区内で別の共同建て替えも提案。「古くからの建物が密集していた地区を変え、災害に強い街にするには、共同住宅建設などで十分な空地を取ることが必要だ」という。

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 被災地で続く住宅再建の模索。とりわけ課題になるのは、木造家屋が密集していた既成市街地の再生だ。

 兵庫県内の木造賃貸住宅約二十万戸のうち、神戸・阪神間は約八割の十五万九千戸。神戸市内の木造長屋は約四万三千戸で、約三割が戦前に建てられた。

 震災の直撃を受けた多くの木造老朽家屋は倒壊、長田、兵庫区を中心に火災が広がった。震災は都市の住まいの構造、環境の問題をあらためて浮き彫りにした。

 神戸市は一九八一年に「まちづくり条例」を制定。住民参加の街づくりをルール化し、密集地の改善に取り組んではきた。

 しかし、共同建て替えなどは容易に進まない。密集住宅市街地整備促進事業の指定地は、長田など七カ所あるが、この十二年間で共同住宅建て替えは、九棟百五十六戸しかない。

 三カ年で八万二千戸の供給を目指す市の復興住宅整備計画。市住環境整備課は「整備の必要な地域はいくらでもある。面としての整備だけでなく、点としての共同建て替えなどの広がりが必要だ」と話し、専門家の派遣も検討する。

 二十四地区ある市の重点復興地域は千二百二十五ヘクタールで、被災地の約二割。残り八割も被害の激しい地域は少なくない。そうした地域の街づくりの取り組みはまだまだこれからだ。

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 「都市の中心部で小さな敷地に平屋や二階の建物が並んでいるようなところは、先進国ではどこにもない。神戸だけの問題ではなく、日本の土地政策の失敗が危険な街をつくっている」

 高田昇・立命館大教授も四月末、建築家らと「共同再建支援チーム」を結成した。住民に助言し、行政とも連携しながら、地域に密着したきめ細かな街づくりを目指す。

 住民を中心に、行政や専門家が支援するシステムができれば、神戸は全国の都市のモデルになる。復興の街づくりは困難な取り組みだが、それぞれの地域での小さな「共同事業」が大きな成果を生むのだという。

1995/6/4
 

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