「財政は火の車だ。神戸市では、例外措置が可能か」
「災害復旧、復興事業が円滑に行われるよう、お互いに知恵を出したい」
五月十八日の衆院予算委員会。遠藤安彦・自治省財政局長の答弁は、従来では考えにくい、踏み込んだ内容だった。
国は、これまで地方財政の健全化を理由に、市債による財源調達に、一定の歯止めをかけてきた。だが、膨大な被害を前に、市の財政はあまりにも厳しい。答弁は、起債の承認に柔軟に対応する、との姿勢を示していた。
同市が、三月に発表した九五年度予算で、市債の発行額は過去最高の三千八百三十三億円に上った。前年度当初に比べ、発行額は四倍以上に達した。
「入るを図り、出ずるを制す」。財政の基本を示す言葉だが、震災は正反対の構図を生んだ。収入の基本となる市税は約七百四十億円も減少、一方で、復旧関連に巨額の事業費を要する。
市の試算によると、九五年度決算は、借金返済割合を示す起債比率が、まだ二〇%を下回っている。しかし、翌九六年度決算では二一・七%になる。その後も増え続ける見込みで、自由に使える財源はどんどん減っていく勘定だ。
「異常な事態で、我慢は十年、二十年は続く」。笹山市長は、予算発表の記者会見でこうも述べている。
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神戸市 二五・三%減
芦屋市 二〇・九%減
津名町 二〇・三%減
西宮市 二〇・二%減
被災した自治体の地方税収入は、前年度に比べ大幅に落ち込んだ。神戸市は、「おのずから事業に優先順位をつけざるをえない」と言う。
ポートアイランド二期に予定する新国際会議場、御影公会堂の保存改修をかねた「嘉納記念館」などの建設計画がずれ込んだ。
西宮市は、市制七十周年記念事業を中止し、芦屋市はスポーツセンターの建設を見送った。限られた財源で、復旧、復興が最優先だった。
しかし、復興に必要な事業費を生み出すには至らない。最大九割の国の補助を定めた「復旧」と違い、現行では「復興」という補助制度はない。国費の投入は、従来の公共事業などと同じ扱いだ。
神戸市理財局は「復興には起債だけで一兆円を要する。従来通りの補助率五割なら、市の負担は五千億円」と説明する。
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五月二十四日、兵庫県公館で貝原知事は、現地視察に訪れた衆院建設委員会の委員に頭を下げた。
「政府、国会で立法的な裏づけをしていただけないか」
特別立法制定への訴えだった。自治体が策定した計画に基づき、国が被災地の復興策を検討する。復興を国家的な事業に位置づけることで、財源の確保を図る考えだ。
兵庫県、神戸市などは、国に復興事業への補助率引き上げ、財政支援措置を繰り返し要望してきた。被災地の街づくり、臨海部の新都心計画、広域防災帯の整備…。十分な補助制度がなければ実現は困難だ。
しかし、大蔵省を中心に、補助制度拡充には難色を示す意見も根強い。大規模プロジェクトが並ぶ復興計画案に、同省からは「国の財源も限りがある。焼け太りを狙っているのではないか」といった声が漏れる。
七月、政府の阪神・淡路復興委員会は、県の計画に対する意見をまとめ、村山首相に答申する。首相自らが「国が講ずべき施策の基本方針」を諮問した委員会の判断が示される。
八月中旬には、九六年度の予算案策定に向け、概算要求が始まる。秋には、第二次補正予算編成が行われる見通しだ。
被災地の自治体は、財政悪化に苦しみながらも復旧へ取り組んでいる。復興には、国の支援がよりいっそう、求められる。予算で、復興にどう道筋をつけるのか。政府、政治の力が今こそ問われる。
(桜間裕章、鉱隆志、加藤正文、柴田大造、長沼隆之、網麻子)=第三部おわり=
1995/6/10