神戸市東灘区の小学校に震災当日避難した男性(88)は、家族と一緒に教室の出入り口に寝ていた。避難所にはかぜがはやった。
一月二十三日、四〇度の高熱を出した。二日後、呼吸が荒くなり救急車で、病院に運ばれたが、医者は「両肺が真っ白です。あきらめてください」。亡くなったのは二月七日。「せっかく倒壊家屋から助け出されたのに」と、近くに住む三女(49)は話した。
震災後関連疾患
同市長田区の神戸協同病院の上田耕蔵院長は、避難所生活など地震後のストレス、生活環境の悪化が、死亡につながる疾患群をそう名付けた。肺炎、気管支ぜんそくや慢性呼吸不全悪化などだ。
二月末までに同病院で関連疾患で死亡した患者は九人で、うち高齢者は七人。上田院長は病院のベッド数などから同時期、市内全体で約五百人と推定する。
兵庫県警によると、震災の県内死者は五千四百八十人。六十代以上は、五三%の二千九百四人もいる。地震は、南部の既成市街地に長く住んでいた高齢者を襲った。震災後、また集中的に被害を受けたのは高齢者だった。
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自治体は対応を取ってはいた。
神戸市は老人ホームへの緊急一時入所を一月二十一日から始め、五月十五日現在で、延べ千八百九十五人を入所させた。しあわせの村など四カ所に暖房付きの二次避難施設を開き、高齢者を保護した。
当日から避難所を回った福祉事務所もあった。こうべ市民福祉振興協会もホームヘルパー利用者の安否確認を急いだ。
それでも、高齢者は避難所や自宅で取り残された。
1・27 痴ほう症でおむつをし下半身ぬれたまま。老人ホームに緊急保護
1・29 がん後遺症で足が不自由。検査に行きたいが交通手段がない
1・30 おむつなので、水分を制限。脱水症、ぼうこう炎を起こし、翌日老人ホームに緊急保護
応援にきた福祉施設職員らの避難所調査に記録が残っている。
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五月二十二日、同市の市民福祉調査委員会は、福祉振興プランを答申した。
福祉施設に地域の防災拠点としての機能を▽公営住宅と特別養護老人ホームの合築などで施設の計画的配置を▽災害時、職員が即座に要援護者にサービス提供できるシステム構築を・などと求めた。将来の避難所整備には触れていない。
特別養護老人ホーム・長田ケアホームに、関東の自治体から問い合わせが相次いでいる。
同ホームは、デイサービス利用者らの安否確認と訪問サービスをする一方、避難所を調べ、緊急保護を要する高齢者を福祉事務所に連絡した。地元の病院などと「高齢者・障害者緊急支援ネットワーク」を結成、ケア付き高齢者専用避難所を開設した。
老人ホームが、被災地の高齢者支援のキーステーションとなった例だ。
神戸市の特別養護老人ホーム定員率は、五十九都道府県・政令指定都市で五十四位(九四年)。震災は、災害時の弱者対策と同時に、ふだんの福祉施策をあらためて問いかけた。
長田ケアホーム施設長の中辻直行さんは「施設福祉も在宅福祉も十分でなかったところに、さらに福祉サービスが必要な状況が生まれている。被災地を出た高齢者はこのままでは戻れない。弱者対策を復興の第一に」と強く求めている。
1995/5/28