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(11)自主防災には(下) かぎ握る日ごろの活動
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 「橋が落ちれば孤島になることが証明された。消防車を島内に常駐させるべきだ」

 神戸市東灘区の人工島・六甲アイランド。三千五百世帯が加盟する六甲アイランドCITY自治会の会長、向田登志良さん(66)は四月中旬、神戸市に強く申し入れた。

 向田さんは同地区自主防災推進協議会の会長を兼任する。住民の大半がサラリーマンで、防災を共に考えることは、まずなかった。「組織も消防署がうるさくいうから名前を整えた。避難訓練を一昨年やった程度で、表に出る活動はほとんどなかった」と振り返る。

 島内の住宅被害は比較的軽く、火災はなかった。だが、新交通システムは橋げたが落ち、車が走る六甲大橋は大きな段差ができた。ライフラインも途絶した。「もし火災が起きればどうなっていただろうか」

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 被災市町は、自主防災組織の強化を防災計画の見直し項目に盛り込むなど取り組みを始めている。

 「地域の防災訓練に積極的に参加する」。神戸市消防局が四月にまとめた市民アンケートに、七割がそう答えた。震災前の参加者は一割にも満たなかった。

 「震災が市民に強烈な防災意識を植えつけた。いまこそ、本ものの組織づくりのチャンスだ」。同市消防局は、民生局と共同で、在宅の高齢者、身障者ら災害弱者に目配りした、独自の自主防災組織「防災福祉コミュニティ」の策定にかかる予定だ。

 組織のなかった兵庫県宝塚市は、小学校区単位のコミュニティー協議会に打診し、本年度中にまず一組織を結成する予定。同様に組織ゼロの芦屋市は「自治会にはかったうえで」とする。

 災害の際、住民らがいち早く安全な場所に避難し、自力で逃げることのできない高齢者・身障者らを、地域で救出し合うには-。

 組織率一〇〇%の静岡市の組織は、町内会単位で、消火、救護、避難誘導班などの役割を決めている。市の防災担当者が出向いて地震対策などを話す座談会を、要望に応じて実施している。

 「自分の町がどうなることが予想されるか。はっきり示すことが必要」と、建物倒壊や火災など町ごとの細かな被害想定資料を、座談会で明らかにしている。

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 希薄な都市の人間関係。それぞれの暮らしや情報を地域が共有することへの抵抗感。「コミュニティー意識を高める方法は難しい」「プライバシーの問題もかかわる」といった声も担当者からもれる。

 神戸市長田区の真野地区でコンサルタントとして長年、街づくり運動にかかわる神戸・地域問題研究所長の宮西悠司さんは「共同生活はわずらわしさを伴うが、それを超えると本当の楽しさ、心地よさ、安心感が得られる。都市住民も本質的にそれを欲している」としたうえで、こう指摘する。

 「コミュニティー育成につながる住民の要望には手厚くサポートし、口は出さない。行政がこの姿勢を貫けば住民自治が育つのではないか」

 六甲アイランドの向田さんらの自治会は、震災後の対策委員会を三月末、復興委員会に衣替えし、新たに企業、学校、病院をメンバーに加えた。秋には街づくり協議会にする計画だ。

 震災の給水や救援物資の配給作業で、住民らは共通の体験をした。「島では連帯しか頼りはなかった。高い授業料だったが、大切な資産をもらった」と向田さんは感じている。

1995/5/27
 

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