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(9)情報を伝える(下) 効果あげたミニFM局
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 「なぜ市民向けに流さなかったか、論議はあるかもしれません」と、尼崎市消防局の橋本雅生・情報指令課長は話した。

 大規模災害に備え、同市は被災地の自治体では唯一、防災行政無線システムを整備していた。設置は一九八六年。市役所などから発信した情報を、無線で市内の各拠点に伝える施設だ。

 消防署、支所など十九カ所に「拡声受信機」、小学校、地区会館、警察など百九十八カ所に「戸別受信機」がある。戸別受信機は活用されたが、大型スピーカーで市民に幅広く伝える拡声受信機は使われなかった。

 「設置以来、初めての試みだが、この際、使用してみるべきだ」

 「市内全域をカバーしているわけではない。機器をもっと増やす必要がある。一部地域だけに情報が伝わると逆に混乱が起きる」

 議論を経て、災害対策本部長の宮田良雄市長が、「使用見送り」を判断した。戸別受信機も、避難所になった学校体育館にはなかったという問題もあった。

 橋本課長は「早期の情報収集と伝達が課題だった。地域防災計画の見直しの中で、増設を含め使用方法を再検討したい」と言う。

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 災害時に、自治体がどう情報を伝えるのか。

 兵庫県は二月十五日から三月末まで、被災地をカバーする臨時災害FM放送局「FMフェニックス」を開設している。政府の現地対策本部と県の協議の中で、政府側が提案、郵政省は一週間で認可を出した。

 開設当時、避難者はまだ千カ所、二十万人いた。スタッフには学生やプロのDJらがボランティアで協力、「被災者向けの生活情報」を中心にした。例えば次のようなものがある。

 (1)十五分間にまとめた情報を繰り返し放送、記録性を持たせる
 (2)定時性にこだわる(例えば、〇〇市の情報は毎日〇時と決める)
 (3)避難所リポートなど生の声を伝える
 (4)税の減免や法律相談などテーマ別特集を組む

 「エリアが狭いほど密度の濃い情報が提供でき、市町や区単位のミニFMは有効だと実感した。ふだんから開局しておけば、市民もチャンネルを合わせる習慣ができ、非常時にも即、対応できる」と芝地稔・県企画部企画参事は振り返る。

 ミニFMは、近畿では大阪府守口市が九三年七月にスタート、震災では発生約一時間後から情報を発信した。今年度からは独居の高齢者らに受信ラジオの無料貸与も始める。

 被災地では、伊丹市がミニFMの開局を郵政省へ要望。開局を復興計画に盛り込む予定の西宮市は「実用化されたFM文字多重放送の『見えるラジオ』導入も検討したい」と話す。

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 九四年の米国・ロス大地震で、災害対策の責任者だった警察本部長は発生から十三時間後、テレビを通じ、ライフラインの状況、火気の注意、車の自粛、給水、避難所など「市民がどうすればいいか」を、十分間で示している。

 「危機管理の在り方を示す取り組み」とされるが、ミニFM局などの伝達手段を通じ、こうした試みが可能になる。

 防災行政無線にミニFM局…。芦屋で被災した関西学院大社会学部の藤原武弘教授(社会心理学)は「たきびを囲んだ住民同士の会話が役立った」という実感から、それに加えて提言する。「行政は、自治会に緊急連絡網を整備するなど、細かな伝達手段をふだんから作り上げる必要がある」

1995/5/24
 

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