「防災都市基盤の整備というが、市の計画案はハード面に偏っていると思う」
「住民のつながりなど、生活文化の蓄積こそが最も大切な防災ではないか」
六月末の市復興計画策定に向け、四月二十五日に神戸市役所で開かれた安全都市小委員会。「防災の街づくりとは」と問う発言が出席者から相次いだ。
市が示した「復興計画ガイドライン」は、笹山市政がキーワードにする「協働」を理念に掲げ、目標別の復興計画、市街地復興計画などを盛り込む。「全体的に文化やコミュニティーの視点が欠けている」。そんな指摘も、全体の審議会で出されていた。
震災後、市が真っ先に打ち出したのは、区画整理、都市再開発などによる都市の再整備だ。
JR新長田駅や六甲道駅周辺、神戸市東灘区の森南地区など、五地区七カ所を、面全体として整備する手法で、建築基準法による建築制限をかけたのは、震災発生からわずか二週間後の二月一日だった。
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神戸市には、名古屋と並び、「戦災復興の優等生」との評価がある。
戦災で、既成市街地は、六割の千九百五十ヘクタールが被災し、家屋の六四%が焼失した。その後の復興は、時に住民の激しい反発を受けながらも、十二地区、二千二百十ヘクタールにのぼる区画整理を進めた。八五%を完了し、山手、中央、浜と東西に三本の幹線道路を通した。
震災で、集中的に被害を受けたのは、戦災を免れ、戦前からの老朽家屋が密集している地域が多い。
笹山市長は、長く都市計画畑を歩み、戦後、数多くの区画整理の現場に立ち会っている。「今回の復興はは、戦災復興の手法を引き継いだともいえる」。都市防災に詳しい国連地域防災センター(名古屋市)・小川雄二郎主幹は話す。
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十六・七ヘクタールの区画整理が行われる森南地区。住民らの手書きの「街づくり基本構想」には、▽歩行者優先のまちづくり▽震災で知った防災の知識を生かす▽年中行事を大切に継承する・などの項目が並ぶ。
まちづくり協議会は、今後の対応に向け、住民アンケートを集約中だ。
森公園を地域全体の避難場所に位置付け、避難路として幅六メートル道路を十七メートルに広げる、JR新駅南に駅前広場をつくる、という市の計画に、協議会会長の加賀幸夫さん(61)は話す。
「十七メートル道路も、駅前広場も必要はない。空き地を公園にし、豊富な地下水を利用して人工池や川をつくるなどで、街に防災機能を持たせることができる」
十七メートル幅が本当に必要なのか。防災専門家からも避難路としての検証はしたのか、「防災」という言葉だけで計画を進めることは疑問だ、との指摘がある。
市で都市計画を担当する小川卓海助役は「一日も早い復興には、街づくりや住宅などハードをなんとかしなくてはどうにもならない。人が住める状況をつくり、そこに人間の心を持ち込み、文化や福祉を進めたい」としたうえで、強調した。
「広場は、市民共通の空間という意味で、『鎮守の森』だ。復興計画が成功かどうかのバロメーターは、市民が協力し合う、コミュニティー空間を残せるかどうかにかかっている」
コミュニティー空間の残し方は-。市と住民の対話はまだ始まったばかりだ。
1995/5/18