大阪在住の神戸市民、会社員の瀬川雅之さん(43)は、神戸市の対応に不満を漏らした。
府県境に近い淀川区、神崎川沿いの仮設住宅。五月下旬、雨漏り修理のため神戸市災害対策本部に連絡したところ、「細かいことは大阪市役所に」と、にべもない返事だったという。
仮設住宅で、神戸市分は百五十四戸。住宅の管理やゴミ回収、乳幼児検診など行政サービスは、大阪市に委託されている。神戸市は「実際なかなか市外に目が届かない。大阪市によくお願いしているのだが」と、話すが、義援金、融資などの情報も届きにくい。
東灘で被災した瀬川さんは「移っても神戸市民に変わりはない。神戸から、ときには職員派遣も検討すべきではないか」と話す。
◆
仮設住宅四万八千三百戸は、被災地の用地不足のため、兵庫県加古川市、兵庫県姫路市、大阪府内など各地にも建設された。その数は約三千六百戸。全半壊した家や子どもの学校の事情などから、住民票を移さない人が多い。立地市町に市民税は入らない。
こうした市民の行政サービスは、元の自治体がどこまで負担するのか。実はまだ、決着がついていない。
「福祉、保健関係だけでも、これだけのサービスがあるんですよ」と、加古川市企画調整室の職員が示したリストには、六十六もの項目が並んでいた。
生活保護、予防接種、乳幼児検診、母子福祉年金や、介護手当、敬老祝い金など多岐に渡る。
同市は、JR東加古川駅近くなどに千二百戸を受け入れ、すでに「市民に準じ、市ができるものは全部提供する」と決めている。さらに、負担について、「手当など現金給付は神戸市、デイサービスや入浴サービスなどは今後協議」との方針を確認。姫路、高砂なども足並みをそろえるという。
「でも、テーブルについたばかりで、交渉はこれから」と担当職員。「全額負担をとはいわないが、早急に詰めて覚書を交わさないと、あいまいになりかねない」と話す。
六月七日、初めて開かれた播磨四市二町と、兵庫県、神戸市の会合は、加古川市が内部で確認していた方向は合意したが、詰めは今後に残されたからだ。
神戸市側は、個々の負担問題について、企画調整局が「一つずつ財政当局と協議しながら検討するが、立地市町にお願いするものもある」と話す一方、民生局は「自治体もそれぞれにあり、個別に交渉しても煩雑で、簡単に決まらない。広域的な問題で、県に調整をしていただきたい。県の条件提示に従う」とする。
その兵庫県震災対策室は話した。「基本的には市町の問題。県費が入るサービスでない限り、積極的に関与しない。負担は今会計年度のうちに協議すればいいのではないか」
◆
震災は、個々の自治体レベルでは大規模災害に対応できないことを、はっきりと示した。
救助や消火、医療活動、ライフラインの復旧など緊急時の「初動」の問題は、県も神戸市も、地域防災計画で、広域の協力体制強化を盛り込む方針で、具体的な手法の検討にかかっている。
仮設住宅の入居期限は、各自治体が一年、二年などとしているが、恒久住宅整備が進まない限り、めどは立たない。そこでの住民サービス充実に、自治体間の息の長い協力が求められている。
1995/6/8