五月初旬、JR神戸駅北で被災した住民から神戸市再開発課に、住宅建て替えの申請があった。「できれば耐火性の強い鉄筋で」と市は期待していた。だが、申請はやはり木造だった。
「助成金も少なく、鉄筋の強制はできない。不燃化促進もなかなか難しい」と、担当職員はもらした。
建設省が進める不燃化促進事業は、地区を対象地域に指定し、鉄筋コンクリート建築に助成する。床面積が百平方メートルを超す住宅は、鉄筋化を義務づけ、それ以下は個人の判断に任されるが、助成金は出る。
神戸市も、一九八八年から、湊川神社から中央体育館を含むJR神戸駅北の大倉山地区約二十二ヘクタールで事業を進めてきた。避難所となる体育館などを取り囲む形で集中整備し、火災の延焼を防ぐ計画だ。
申請は決して多くはなかった。助成は百平方メートル規模で百二十五万円。坪当たり四万円程度。ふつう木造と鉄筋では、坪二十万円の差がある。鉄筋の必要性は理解しても、個人には相当の負担増になる。
市内の対象地区も、結局、ここ一カ所に限られた。市再開発課は「国の補助を受ける以上、一定の成果が求められる。建て替えを見込める地区がほかになかった」と説明する。
七年で整備できたのは二十七件。県内では、尼崎市が、九二年度から国道2号線周辺十五ヘクタールで実施しているが、四件にとどまる。
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不燃化事業は、東京の下町に当たる墨田区の取り組みがきっかけだ。七九年度に制度がスタート、翌年、国が後追いする形で現行の補助制度ができる。
同区の助成金は二百四十万円で、改築で仮入居する場合、最高四十万円の補助が出る。改築後、三世代住宅にすれば、さらに百万円。独自の加算制度で、いかにも手厚い。
「逃げないですむ燃えない街が目標だが、関東大震災の反省があった」と同区都市計画部の職員は話す。被害が集中した区南部だけで、死者四万八千人。当初は、学校など避難所を中心に拠点の不燃化を進めたが、八八年度からは区内全域を事業の対象にした。
浅草駅から隅田川を東に渡った向島地区は、密集する住宅に工場が混在し、神戸市長田区に似ている。約六百五十ヘクタールのうち、不燃化率は約五〇%。区画整理が進む本所地区は七〇%以上。事業費は四十五億円にのぼる。
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五月八日、神戸市消防基本検討委員会は、防災都市づくりに向けた答申をまとめた。「延焼遮断帯として、不燃建築物の計画的整備を図る」とある。
新長田、六甲道など地域全体で整備を進めるところは、鉄筋の共同住宅化がベースになる。ほかの地域の対策は、今のところ白紙の状態だ。
建設省は「民家の耐火性向上には、当面、現在の不燃化促進の手法しかない」と話すが、神戸市は対象地域拡大に否定的だ。
十分な助成なしの建築規制は、新たな建築の意欲をそぐ、防災上のメリットはあっても、地域全体の鉄筋化は具体性に欠ける、と理由を挙げ、「国と市が半分ずつ負担する助成では、財政がもたない」と言う。
「鉄とコンクリートの街にしてはだめだ」との学者の指摘もある。だが、避難所の周りに対策を講じるなど、工夫はないのだろうか。「個々の住宅の耐震診断や助言などソフト的な施策は」との問いに、市は「それも検討中」と答えた。
1995/5/21