「灘の酒造りと住吉川の水車」をテーマとした住吉歴史資料館学芸員の内田雅夫さんらの講演会が先週、神戸市東灘区の白鶴酒造資料館で開かれた。
今も日本酒の中心産地である灘は、江戸時代後期から高品質化と大量生産に成功し、江戸市場を制覇した。その要因には海上輸送に適した立地や醸造に適した宮水が挙げられるが、内田さんは水車による自然エネルギー革命が原動力となったことを強調した。
水車は、菜種と綿実の油を搾るために六甲山の急流の各地に設けられた。その力を酒米の高精白化にも向けるようになり、日本酒生産で豊かになった地域は幕府の直轄地となるに至る。こうした歴史は地元でも詳しく知られていない。
講演会を主催した生活クラブ生協都市生活は、先人の産業遺産を新たな形で次代につなごうと、水路跡などを利用した小水力発電を計画している。
水車について語る人々の情熱に触れる中で、地域で受け継ぐべき物語のことを考えた。環境技術や自然エネルギーが地球温暖化対策の最重要テーマとなる今、子供たちが地域から地球の未来を考える上で、これほど適した教材はない。
思い浮かべたのが、コウノトリの郷(さと)を復活させた豊岡のことだ。野生復帰に取り組む地域で育ち、人と自然の歩みを生き生きと語る豊岡の子供たちを見ていると、一生の宝となる地域の物語の必要性を強く感じる。
神戸から西宮にかけて存在した多くの水車と関連施設は昭和の水害などでほとんど失われてしまった。遺構が朽ち果てる前に、200年前から続く自然エネルギーと人の物語をしっかり伝えることは、地域の大人の役割だと思う。
