父と母、それに30代とおぼしき息子の3人で焼き肉を食べる。ただ、主役は山盛りのピーマン。父親が借りる市民農園で、なぜかピーマンばかりできてしまった。「どこが焼き肉なのよ」。文句を言い合って食べているうち、息子はピーマンと一緒に家族のよさも味わう-。
小説「ピーマン祭り」の面白みが少しでも伝わったなら、幸いだ。昨年の神戸新聞文芸のエッセー・小説部門で、年間最優秀賞を受賞した。作者は神戸市兵庫区の本木晋平さん。
鍼灸(しんきゅう)院を営みながら毎月、大阪・堂島のNPO法人「ビッグイシュー基金」事務所に出掛け、ボランティアでホームレスの人たちにはりを打っている。技術や知識を生かした「プロボノ」と呼ばれる社会活動である。
街角で売られる雑誌「ビッグイシュー」を読み、自分でも何かしたいと電話を入れたそうだ。肩こり、膝や腰の痛み。話を聞きながら治療に当たるうち、話題は日々の暮らしやこれまでの出来事へと広がっていく。
以下は本木さんの言葉。「ホームレスの問題では今まで傍観者でしたが、ボランティアをして『当事者の目』を持つことができた。はりの免許を取っててよかったと思いました」
もう一つ。「最初の一歩は少し勇気がいりましたが、踏み出すと、内向きだった自分の世界が外向きに変わりました」
ポジティブな本木さんと話していると、こちらも気持ちが高ぶっていく。「京大の森毅さんが言ってました。『何でもええけど、えげつない社会にはするな』と。えげつないのは、あきません」。その通り、です。
今、新しい小説を書いているそうだ。テーマは「コロナウイルスとマスク」。どんな話になるのだろうか。乞うご期待。
