日々小論

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 「東北出身の苦労人」と聞いて思い浮かべる一人が宮沢賢治だ。岩手県花巻に生まれ、農村の生活向上に尽力しながら作家活動を続けるが、無理がたたって結核を病み、37歳で没した。

 童話や詩集など作品の多くは没後に刊行されている。亡くなって87年になる今も、言葉はみずみずしく心に染みる。

 首相に就任した菅義偉氏は岩手県に隣接する秋田県の生まれだ。同じ東北出身だからか、「国民のために働く内閣」という就任会見の発言に、賢治の「雨ニモマケズ」が重なった。

 内閣が国民のために働くのは当然のことである。なのにどこか安心するのは、前政権が誰のために働いているのか、時に首をかしげたからかもしれない。

 国民が熱望したわけでもないのに、憲法改正にこだわり続けた。集団的自衛権の行使容認などでは、多くの国民が疑問の声を上げても耳を貸さなかった。

 「アベノマスク」しかり。260億円もの税金が投入されると事前に知っていれば、どれほどの人が賛同しただろう。

 賢治は「雨ニモマケズ」の一節でこう書いている。「アラユルコトヲ/ジブンヲカンジョウニ入レズニ/ヨクミキキシワカリ/ソシテワスレズ…」

 無私や謙虚さを失えば、政治は「ジブン」や「ジブンタチ」だけのものになりかねない。

 会見で菅氏は語った。「国民の感覚からかけ離れた当たり前でないことが残っている」。それを取り除くために「縦割りを打破し、既得権、あしき前例主義を打ち払う」のだと。

 首相の権力は絶大だ。「これは国民のためなのか」と絶えず自問し、人の言葉にはよく耳を傾ける。「慾(よく)ハナク/決シテ瞋(いか)ラズ」。そういう政治でなければ、いずれ人の心は離れる。

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