銘切り職人となった野村泰記さん(左)と杉本政美さん=三木市別所町高木
銘切り職人となった野村泰記さん(左)と杉本政美さん=三木市別所町高木

 包丁やのこぎりに、製作者や使い手の名前などを刻む「銘切り」の技術を持った職人が2人誕生した。三木工業協同組合(兵庫県)が開いているセミナーに通い、長年「金物のまち・三木」に受け継がれてきた伝統の技を習得した。それぞれの初仕事を無事に済ませて「もっと技術を高めていきたい」と上を見据える。(長沢伸一)

 銘切りは「たがね」と呼ばれる先端がとがった金属の道具を金づちでたたき、包丁などに文字を入れる作業だ。現在は機械化が進んでいるが、手彫りの良さを求める人から一定の需要があるという。

 ただ、専門の職人は高齢化に伴って減っており、同組合は後継者を育成しようと、約20年前からプロの職人を講師にセミナーを開いている。現在は千代鶴貞秀工房(三木市福井3)の森田直樹さんと、三寿ゞ(みすず)刃物製作所(同市本町2)の宮脇大和さんが講師を務める。

 今回、新たに銘切り職人となったのは、野村泰記(やすき)さん(55)=神戸市西区=と杉本政美さん(44)=三木市=の2人だ。

 野村さんは2年前、同組合の包丁研ぎセミナーに参加し、受講生から銘切りのセミナーを紹介された。たがねへの力加減が難しく、当初は練習用の金属に点しか打てなかったという。「技術が上がっていくと自分がイメージしたラインが鉄に出せる。その喜びが魅力なんです」と笑う。

 今年3月に会社を退職し、4月に包丁研ぎや銘切りをなりわいとする「ノムさん工房」を立ち上げた。最初に依頼されたのは、結婚祝いの包丁に新郎と新婦の名前を刻む仕事。一文字一文字、緊張しながら丁寧に刻んだ。「印刷物ではなく一点物に印を付けられる。自分が銘を入れたものが受け継がれていくと思うと、仕事の重さを感じた」と振り返る。

 杉本さんは、かんな台職人の父親に勧められ、4年前からセミナーに通う。始めた時は「たがねをうまく扱えず、入れたい場所に文字を入れることさえできなかった」。特に曲線のある平仮名が難しく、ひたすら研さんを繰り返した。コツコツと磨き上げた技術が評価され、現在は三木の包丁職人が手がけた製品の銘切りを請け負う。

 最初の依頼を受けた時は4カ月間、平日の夕方や土日など、時間を見つけて練習に励んだ。依頼を受けたのは5文字だけだが「銘は商品を表す顔だと思っている。自分が納得しないまま商品にするのは失礼」と、徹底的に金属板と向かい合った。「緊張したが、先生の言葉を思い起こしながら銘を入れた」と明かす。

 職人デビューを果たした2人は、さらなる技術の向上を誓う。「漢字、平仮名、片仮名、アルファベット…。どんな字でも書けるように技術を高めたい」と野村さん。杉本さんも「練習を重ねて、習字のような字が金属に刻めるようになれれば」と力を込める。

 仕事の依頼は野村さんが「ノムさん工房」にメール(nom3kobo@gmail.com)。杉本さんはTEL090・7173・3250まで。