石破茂首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が終わった。
自民党派閥裏金事件を受けた企業・団体献金の是非、トランプ米大統領への対応、選択的夫婦別姓の導入などが問われた。少数与党では野党の協力なしに予算案も法案も成立しない。だが首相は野党が求める政策への明確な発言を避けた。説明を尽くし合意を探る熟議には程遠い。
昨秋の臨時国会では企業・団体献金の禁止の是非について、3月末までに結論を得ることで与野党が合意した。立憲民主党の野田佳彦代表は改めて禁止を要求したが、首相は「企業・団体献金自体は不適切だとは考えていない。透明性を確保する取り組みを進めていく」と否定的な考えを示した。「政治とカネ」を巡る不信の払拭へ、指導力を発揮しようとする意欲はうかがえない。
首相の消極姿勢は裏金事件の実態解明についても同様だ。野党は予算案審議入りの条件として、旧安倍派会計責任者の参考人招致の議決を与党に求めたが、首相は「国会で判断いただく」とかわした。しかし公明党が賛成に回り、自民は議決には応じるが招致には反対の構えだ。
国会開幕前には、東京都議会の自民会派による裏金事件が明るみに出た。野田氏は自民が実施した各都道府県連などに対する調査が「わずか1週間足らずでおざなりだ」と批判し、再調査を求めた。これに対し、首相は「現時点で他の不記載事案は確認されていない」と拒否した。
与党が過半数割れした最大の要因が裏金問題に対する後ろ向きな態度への批判であることを忘れたのか。信頼回復には真相究明が欠かせないことを首相は自覚するべきだ。
トランプ氏への対応にも質問が相次いだ。首相は「強固な信頼協力関係を構築し日米同盟をさらなる高みに引き上げたい」と述べた。日本維新の会の前原誠司共同代表は、世界保健機関(WHO)脱退や気候変動対策のパリ協定からの離脱について首脳会談で翻意を促すべきだと迫った。しかし首相は個別政策への論評を避けた。外交への影響は大きく、認識を示さないのは心もとない。
選択的夫婦別姓を巡り、首相は「いつまでも結論を先延ばしにする問題ではない」と繰り返した。だが自民内は異論が根強く、意見集約のめどは立たない。首相は総裁選では導入に前向きだった。国会で自らの考えを率直に語ってこそ、国民の理解や共感も広がるのではないか。
論戦の舞台は予算委員会に移る。少数与党の国会では、野党も政策課題を解決する責任を与党と共有している。今夏には参院選がある。各党は主張を競い、国民に選択肢を示す建設的な議論を深めてもらいたい。