国土交通省は日本郵便に対し、全国の郵便局で保有するバンやトラック2500台の貨物運送事業許可を取り消す行政処分案を通知した。運転者の酒気帯びをチェックする点呼を、適切に実施しなかったためだ。今月中にも正式に処分する。

 事業許可の取り消しは、貨物自動車運送事業法に基づく行政処分で最も重い。大手事業者に出されるのは極めて異例だ。届け出制で使われている軽バンなど3万2千台にも、国交省は期間を区切った使用停止などの処分を検討している。

 事業許可は5年間は再取得できない。処分による影響は甚大で、日本郵便は系列企業への委託を増やすほか、他の物流大手に協力を打診している。社会インフラである郵便配送網の維持に全力を尽くすとともに、組織風土を刷新せねばならない。

 不適切な点呼は今年1月下旬、小野郵便局(小野市)で発覚した。数年前から職員が点呼をせずに配達業務に就いていた。これを機に日本郵便が集配業務を扱う全国3188局を調査した結果、75%で不適切な点呼が行われていた。4月だけで20件の酒気帯び運転があった。

 物流業界は残業規制の強化や採用難から人手不足に苦しむ。各郵便局は配達を最優先するために点呼をおろそかにしたのだろう。

 飲酒運転の根絶は社会的な要請であり、点呼は基本中の基本である。法令順守を軽視し、危険運転を見逃すことがあってはならない。同社は処分を厳しく受け止めるべきだ。

 内部通報窓口には年に数件、点呼不備に関する意見が届いていたという。配達員が車内で酩酊(めいてい)したり、飲酒運転による物損事故も起きたりしていた。しかし対応を個別の局にとどめ、全社的な措置は講じられなかった。企業統治の欠如は深刻だ。

 郵政事業は2007年に民営化され、持ち株会社の日本郵政が日本郵便やゆうちょ銀行、かんぽ生命保険を傘下に抱える。従業員36万人の巨大グループ内では不祥事が相次ぐ。

 日本郵便は下請け事業者から十分な根拠を示さずに「違約金」を徴収したほか、下請け事業者の委託金引き上げ要請を放置した例も発覚し行政指導を受けた。窓口業務を受託するゆうちょ銀の顧客情報約1千万人分を、かんぽ生命の営業目的に不正利用した事例もあった。

 電子メールや交流サイト(SNS)の普及で郵便の利用はじり貧となり、銀行や保険事業は競争が激しくなるばかりだ。グループの成長戦略が描けないことも、不祥事を生みやすくする土壌につながるとの懸念が拭えない。郵政民営化が顧客を重視し、国民生活の向上をもたらしているのか、検証が求められる。