懲役と禁錮を廃止し、新設の「拘禁刑」に一本化する改正刑法が施行された。刑罰の目的を「懲らしめ」から「立ち直り」へ大きく転換させた。1907(明治40)年の刑法制定以来初めてとなる刑罰の変更を、受刑者の更生と社会復帰の促進につなげねばならない。
改正の最大の狙いは再犯防止である。刑法犯は減少傾向だが、検挙者に占める再犯者の割合は約5割と高止まりしている。厳しく指導すれば受刑者が罪と向き合い更生するとの従来の方針は通用しなくなった。
受刑者の特性が多様化し、個々に対応する必要性も高まっていた。法務省によると、2023年に刑務所に入所した受刑者約1万4千人のうち高齢者の割合は過去最高の14・3%に上った。知的・発達障害のある人も増えている。
これまでの懲役刑は木工や印刷、炊事などの刑務作業を義務付け、リハビリや教育が必要な人に十分に対応できなかった。一方で作業の義務がない禁錮刑の人も約8割は本人の希望で従事していた。
拘禁刑の導入で、70歳以上で認知症などがある「高齢福祉」▽薬物依存からの回復を目指す「依存症回復処遇」▽知的・発達障害者らに向けた「福祉的支援」-などの24課程に処遇が再編された。個々の特性に合わせ、より柔軟で実効性の高いプログラムを構築する必要がある。
就労に向けたコースも充実させる。農業関連、伝統工芸などの後継者育成のほか、若年者らを想定し対人関係や義務教育課程の内容を教える。すでに各地の刑務所で先行実施しており、ノウハウを蓄積して出所後の実績を向上させてほしい。
ただ、大きな懸念も残る。職員の意識をどう変えるかだ。
刑務所では若い刑務官を中心に絶対服従を強いる傾向があり、01、02、22年に相次いだ名古屋刑務所での受刑者暴行事件の背景にもなったと指摘される。長期的な視野に立ち、「改善更生」の目的を現場に浸透させる取り組みが欠かせない。
拘禁刑は今月以降に起きた事件や事故に適用されるため、懲役・禁錮刑をすでに受けた人との併存が長く続く。従来の受刑者も法改正の趣旨を反映させた処遇に改めるべきだ。
無期懲役の受刑者への対応も課題となる。仮出所までの期間が長期化する現状は、改正刑法の趣旨に反する。究極の刑罰とされ、国際社会の批判が強い死刑制度の是非も問い直さなければならない。
受刑者の働く意欲や技能を高めれば、深刻化する人手不足の改善にもつながる。国や自治体は国民の理解を促し、出所者が地域で孤立しない環境をつくることが大切だ。