石破茂首相の下で初となる経済財政運営の指針「骨太方針」が閣議決定された。予算編成に先立ち重視するテーマや施策を絞り込むのが「骨太」の本来の目的だが、総花的な印象で既視感のある政策が多い。

 成長目標などで大胆な数字を掲げたものの、実現への道筋は明確ではない。むしろ目立つのは7月に迫る参院選への思惑である。

 基本的な考え方として「減税政策よりも賃上げこそが成長戦略の要」と明記した。賃上げ重視に異議はないが、減税より効果的とまで断じた点が目を引く。参院選で消費税減税を訴える野党への対抗姿勢を打ち出す狙いは明らかだ。

 物価変動の影響を差し引いた実質賃金の年1%上昇を定着させ、名目国内総生産(GDP)は2040年ごろに1千兆円程度を視野に入れるとした。最低賃金は昨年の指針と同じく全国平均1500円を掲げたが、30年代半ばとしていた実現時期を20年代に前倒しした。

 GDPの目標値は現在より6割以上高く、3%台の成長を続けないと達成はおぼつかない。最低賃金は毎年7%台で引き上げる必要がある。人件費の増加に耐えられない事業者も少なからず出てくるだろう。

 いずれの目標達成にも企業の生産性向上が不可欠で、29年度までに官民で60兆円を投資すると盛り込んだ。重要なのは、どの分野に投資すれば効果的かを見極めることだ。金額ありきで進めるべきではない。

 財政健全化の姿勢が後退したことも見過ごせない。政策支出を税収で賄えているかを示す基礎的財政収支(PB)について、25年度としていた黒字目標を「25年度から26年度を通じて可能な限り早期の黒字化を目指す」と先送りした。

 加えて、PBの黒字幅が一定水準を超えれば「経済社会に還元すること」を検討するとした。自民党は参院選公約に国民1人当たり2万円給付を掲げており、同様のばらまきを繰り返す根拠になりかねない。巨額債務を減らすことが財政健全化の本旨であると改めて強調したい。

 このほか、風邪薬など市販薬と効能が似た「OTC類似薬」の保険適用見直しや、教育無償化の実現も盛り込んだ。いずれも日本維新の会が実現を求め、与党と合意していた内容である。少数与党下で脆弱(ぜいじゃく)な政権基盤が参院選の結果次第でさらに厳しくなりかねないのを踏まえ、維新との関係を強めておこうとする意図がうかがえる。

 地方創生や防災庁の創設を含む防災体制の強化など、首相肝いりの施策は埋没した感が強い。国民に「石破カラー」をアピールする好機を首相はまたも逸したのではないか。