小泉進次郎農相は、コメの単位面積当たりの出来具合や見通しなどを示すため1956年から公表してきた「作況指数」を廃止すると明言した。今後は人工知能(AI)や衛星画像などによる調査方法を探る。
作況指数に対しては農家などから、実際に流通するコメの量に即さないとの批判が出ていた。長引くコメ不足と価格高騰の一因は、農林水産省が需要と供給の実態をきちんと把握していなかった点にある。国民生活の基盤となる主食の安定確保に向け、政策立案の基本となる精度の高い統計を作り直さねばならない。
作況指数は全国8千カ所の水田を無作為に抽出して10アール当たりの玄米の収穫量を把握し、過去30年の平均を100として算出する。
批判を受けているのは、まず収穫量の計測方法だ。玄米をふるいにかけ未熟な粒を取り除くが、農家などが使うものよりふるいの目が細かく、市場に出さない小さな粒も含まれるという。
近年は高温障害で品質が悪化し、精米で粒が割れるため白米にすると量が減る場合も多いが、そうした要素は指数に反映されない。
コメが店頭から姿を消した昨年、農水省は作況指数が「平年並み」の101であることを根拠に、新米が出回れば不足は解消すると説明した。しかし農家からは否定的な声が相次ぎ、不足はその後も続いた。実態とかけ離れた作況指数に重きを置いた結果、備蓄米放出の政策判断が遅れたとすれば問題は深刻だ。
作況指数はあくまでサンプルの水田でのコメの出来具合を示すにとどまり、全国の収穫量とは直接関係しない。2009年から24年までの間、作況指数は100前後で推移しているが、主食用米の作付面積と収穫量はともに約21%減っている。農水省は「コメは余っている」として減反政策を続けてきたが、その前提も見直す時期に来ている。
一方で作況指数には、台風や豪雨などによる不作の影響が反映されるため、生産や流通の現場では米価形成の目安とされてきた。突然の廃止が与える弊害を農水省は認識し、対策を講じてもらいたい。
西日本では27日に梅雨が明けたとみられる。記録的な早さで、高温や少雨が稲の生育を妨げないか心配だ。各地のJAが農家に示す25年産米の出荷価格は24年産の銘柄米を上回る水準となりそうで、不作を見込んで需要が一気に高まれば品不足や値上がりが繰り返されかねない。
変化に迅速に対応して主食の安定供給を維持するため、生産現場から流通の末端まで実態を的確に把握する方策を農水省は早急に構築する必要がある。