「孫が最近、私のことを『グランマ』って呼べるようになったんよ」
大腸がんで、明石市のふくやま病院の緩和ケア病棟に入院する森脇真美さん(57)がほおを緩める。1月下旬、私たちは病室で話を聞いている。長女の猪野麻帆さん(27)が男の子を出産したのは2018年5月、がんが分かって4カ月後のことだった。
麻帆さんは私たちに「母はこの子の成長を生きがいの一つにしています。見るだけでずっと笑顔になるんです」と言った。
もちろん、孫が少しずつ言葉を発するようになるのはうれしい。でも、1人になると考えてしまうことがある、と森脇さんは漏らす。
「孫の記憶に私は残らない、忘れちゃうんやろなあって。もうちょっと先、せめてあの子が私を覚えてくれるまでは生きたかったなあ」
森脇さんの寂しさが伝わってくる。取材ノートに書きとめた文字が涙でかすむ。
◇ ◇
娘さんへはどんな思いがありますか?
私たちの問いに、森脇さんは「それぞれの生活は心配ないけどね」と言い、娘たちが幼かった頃を振り返った。森脇さんは30代前半で両親を相次いで亡くしている。当時、長女の麻帆さんはまだ1歳だった。「母に手伝ってほしい、知恵を借りたい…。そう思ったことはやっぱりあったの」。森脇さんが声を詰まらせる。
娘たちの運動会を見に行き、祖父母が一緒に来ている家庭をうらやましく思ったこともある。「娘も私と同じように『お母さんがおってくれたら良かった』って考えてしまうんかなあ」。森脇さんが言葉を絞り出した。
◇ ◇
2月に入り、森脇さんはいったん自宅に戻った。退院後の診察では、左右の肺にがんが広がり肝臓も腫れていた。「次に入院すると帰りにくいかもしれません」。主治医からそう告げられた。
2月7日、私たちは自宅を訪ねた。森脇さんは背中を少し曲げ、廊下の壁をつたって歩く。1月に病院で会った時よりも声に張りがない。
退院してから、娘や夫にスマートフォンでメッセージを送ったそうだ。森脇さんがその画面を見せてくれた。
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