娘や夫に宛てた無料通信アプリLINE(ライン)のメッセージには、がんで最期が近づく森脇真美さん(57)の思いがこもっていた。
2月7日、私たちは明石市内の森脇さんの自宅で、スマートフォンの画面を見せてもらっている。
「つつみ隠さず今の状況を家族には伝えることにしました」。メッセージはそんな書き出しから始まる。病状や体の痛みをつづり、医師に診察で告げられた言葉を記す。
「これがおそらく最後の家になるでしょう。とのことを主治医が教えてくれました」
それでも、文面は決して暗くならない。
「最後のお家といっても、その期間を奇跡で長くしたいな!」と伝え、笑顔の絵文字を付けて締めくくった。「みんなでごはん食べて、思いっきり思い出話して大笑いして大泣きしたい」
2月9日、娘や孫が集まり食事会が開かれた。
◇ ◇
翌10日、私たちは森脇さんがふくやま病院(明石市)の緩和ケア病棟に再入院したと聞かされる。体調を案じ、メールを送ると「自分でやれる事が思っている以上に急激に低下していて、その事により考え方すらまとまらない状態です」と返信が届いた。
日を置いて体の状態が落ち着くのを待ち、私たちは森脇さんに会いに行った。1月に病室を訪ねた時は上半身を起こして迎えてくれたが、この日はベッドから動けない。顔の表情もうつろに見える。
家族が集まった食事会はどんな様子だったのだろうか。
「食卓にギョーザとかナゲットとか並んでね。ポテト、いっぱい食べたよ」。森脇さんが笑顔になる。娘たちが小さかった時に撮ったピアノの発表会や運動会の映像を見て、盛り上がったそうだ。
孫が昼寝をしている間に家族に感謝も伝えられた。
「いいお母さん、いい奥さんちゃうかったけれど、みんなこうやって時間をつくってくれてありがとう、ってね」。ゆっくりとした口調で振り返る。目から涙があふれる。
ご家族はどんな反応でしたか?
「そんなことないで、尊敬しとうで、って言ってくれてね。大泣きする時間じゃなくて、みんなで笑って過ごせた時間だった。楽しかったあ」
◇ ◇
取材から10日が過ぎた2月23日、森脇さんは息を引き取った。
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