今回から物語の舞台を芦屋市の市立芦屋病院に移したい。私たちが金森英彦さん(84)と克子さん(83)夫婦=西宮市=の病室を訪ねたのは、2月初めのことだ。
英彦さんは長年、繊維メーカーに勤めた。夫婦は一緒に旅行やテニスを楽しみ、3人の子どもを育てた。昨年3月、英彦さんに胆管がんが見つかる。手術をしたものの、2カ月後に再発、その後も状態は好転しなかった。
今年1月10日、英彦さんは芦屋病院の緩和ケア病棟に入る。その日、家族が克子さんの様子がおかしいことに気づいた。
◇ ◇
つらそうにしていた克子さんに、風邪を疑った長女の宮本亜紀子さんが内科の受診を勧める。すると、亜紀子さんの元に内科の医師から連絡が入った。「白血病です。即、入院になります」
血液検査の結果が非常に悪かったという。別の医師には「このままだったら、お母さんの方が、お父さんより先に亡くなるかもしれません」と告げられた。
そんなまさか-。父が緩和ケア病棟に入った日に、母が白血病の診断を受けるなんて。戸惑う中で、亜紀子さんは仲の良い両親のことを思う。今、この状態で、2人を引き離してしまうとどうなってしまうか、と。
亜紀子さんはその日のうちに、英彦さんの主治医で緩和ケア内科の大前隆仁医師(36)らに「何とか両親を同室にしてもらえませんか?」と頼んだ。だが「難しいと思います」と断られた。
病院側としては、克子さんの治療方針が定まらないうちは許可できない。急がれるのは、克子さんが抗がん剤治療を受けるかどうかの決断だった。場合によっては、無菌病室に入る必要があった。
家族で話し合った結果、克子さんの状態をこれ以上悪化させないため、抗がん剤治療を始めることが決まる。
◇ ◇
亜紀子さんは英彦さんと話をする中で、緩和ケア病棟への入院を前に自宅で交わした両親の会話について聞かされる。克子さんは「お父さん、私を置いていかないで」と言い、夫婦で手をつないで「一緒に逝きたい」と話し合ったという。
「やっぱり同室にしてあげたい」。亜紀子さんはもう一度、病院と掛け合おうと思った。
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