白血病と診断された金森克子さん(83)は芦屋市の市立芦屋病院に入院した。夫の英彦さん(84)は同じ病院の緩和ケア病棟に入っている。
長女の宮本亜紀子さんは、父親の主治医の大前隆仁医師(36)に、あらためて両親を同室にしてくれるよう頼む。「どちらが先に逝くことになっても、離れ離れのまま、その日を迎えるのは避けたい」。話すうちに、涙が流れた。
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克子さんの入院から4日目の1月13日、亜紀子さんは克子さんの主治医と面談する。そして、英彦さんのそばで受けることができるタイプの抗がん剤治療に取り組むことが決まった。
選択肢の中にあった無菌病室での治療より多少のリスクがある。それでも、両親が一緒に過ごすことを優先した。
病室として、4階奥の一般病棟にある広い個室を使うことになる。夫婦が同室でがんの治療やケアを受ける。芦屋病院では前例がなかった。
13日午後、英彦さんが緩和ケア病棟を出て、その部屋に移ってくる。夫婦の二つのベッドが並んでいる。自宅でそうだったように。
英彦さんの主治医、大前医師はこう考えていた。「家にできるだけ近づけることが、『患者さんらしさ』につながる。自宅の寝室が夫婦で同じだったのなら、そうするのが自然であり、それが本人の生きる力を高める」と。
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英彦さんがせき込むと、克子さんが「頑張って」と声を掛ける。タンがからまる音がしたら、「大丈夫?」と、ベッド柵の隙間からのぞき込んだ。
「それぞれがベッドから手を伸ばして、つないでいることもありましたよ」。亜紀子さんが、笑みを浮かべて私たちに教えてくれる。
容体が落ち着いている時は、クラシック音楽番組のDVDを見ながら、おしゃべりをした。海外駐在や旅行で訪れたヨーロッパの街並みが映ると、「あぁ、あそこの近く」とか、「エスプレッソがおいしかった」とか言い合って。
「私には分からない会話です。2人で過ごした時間を懐かしんでいたんだと思います」と亜紀子さん。
英彦さんは1月中に亡くなる可能性もあった。カレンダーは2月を迎えている。
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