私たちは大阪市東淀川区の淀川キリスト教病院に来ている。神戸・三宮から阪急電鉄に乗り、40分ほどで着いた。
1984年、国内2番目に緩和ケア病棟(ホスピス病棟)を開設した。現在は27床あり、2018年度は244人が入院したという。
私たちが取材を申し込んだのは、名誉ホスピス長の柏木哲夫さん(80)だ。精神科医で、緩和ケアの第一人者といわれる。
約2500人のみとりを経験した柏木さんは言う。
「最期に、その人の生きざまが凝縮されます。不平を言ってきた人は不平を言って死に、感謝してきた人は感謝して死にます。人は生きてきたように死んでいくのだと、患者さんに教えられました」
終末期の患者は、体と心の痛みに直面する。「なんで私が?」といった魂の痛みも押し寄せてくる。
そういう患者にどう接しているのだろう。柏木さんは、千人ほどをみとった頃から、考えが変わったそうだ。
「以前は、下から『支える』のだと思っていました。そうではない。横から『寄りそう』のが、私たちの仕事だと思うようになりました」
寄りそうとは?
「求められるのは人間力です」と柏木さん。そばにいて話に耳を傾け、分かろうとする。「人はみな、死んでいく力を持っている。みんな死ぬし、みんな死んできた。苦痛を緩和し、寄りそう人がいれば、人はちゃんと死ねると思うのです」
寄りそうことを続けてきたのが、91年から淀川キリスト教病院で働くチャプレン(聖職者)の藤井理恵さん(60)=兵庫県芦屋市=だ。これまでに約350人を見送った。
死が近づく中、自分の無力さと向き合い、苦しむ患者がいる。藤井さんは病室でその気持ちに耳を傾け、聖書の言葉を伝えるなどしてきた。
藤井さんが、2009年に出会った44歳の女性のことを語り始める。子宮肉腫を患い、余命はわずか。中学生の双子と小学生の3人姉妹の母親だった。
次回は、藤井さんの顔をじっと見つめ、「私だけがいなくなるのです」と涙した彼女の話を届けたい。
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