昨年6月に始まったシリーズ「いのちをめぐる物語」には毎回、多くの手紙やメールをいただいています。今回もさまざまな声が寄せられました。
ある読者は、兵庫県明石市に暮らす60代の妹が3月に息を引き取りました。届いたファクスには「私の大事な妹が亡くなり、寂しくてたまらない時に(記事が)目に入ってきました」とあります。連載で最初に紹介した森脇真美さんの住まいが明石だったこともあり、妹を思って涙が止まらなかったとつづられています。
今年1月に誕生日を迎え、にぎやかに祝ったそうです。その後、2月に入院し、そのまま1カ月ほどで亡くなりました。ファクスには最期の日々を生きる様子も記されています。「『もうあかんかもしれん』と言って、妹は『今までありがとう』と言いました。私は何も言えなくて、うん、うん、とうなずいていました」と。「桜、見に行こうね」と握手したのが最後だったそうです。
連載の初回、見出しには「近づく最期 自分らしく」とありました。
「母の場合は、それは、病院で過ごすことではなく、大好きな父と一緒に建てて、56年間暮らしてきた家で過ごすことだったのかなあと思います」。手紙にそう記すのは、姫路市の60代男性です。88歳の母親を3月、自宅でみとりました。便せん12枚に母が旅立つまでの記録や、その時々の思いがつづられています。
母親には認知症がありました。点滴を抜くなどしないように、病院では手にミトンをはめられ、「つなぎ」という上下がくっついたパジャマを着せられていたそうです。母のストレスがたまっていると感じた男性は「お母さん、病院にいるのは嫌だろ。おうちへ帰りたいか?」と尋ねます。すると、母はうなずきました。家に戻り、亡くなるまでの26日間、自宅で過ごせたということです。
連載への指摘もいただきました。記事では、死へと向かう気持ちの揺れとともに、体の変化にも触れています。
60代の女性から届いたファクスには「今から闘病に向かう読者がいることも心に置いていただきたい。不安をあおり、患者が絶望することのないように」と書かれていました。家族が、がんと向き合っておられるそうです。
取材班では、そうした読者がいることを心にとどめておかなければならない、と話し合いました。
次回から物語の舞台は日本を離れ、タイに移ります。日本と同じように仏教徒の多い国ですが、「死」への向き合い方はかなり違うようです。私たちはまず、公立病院の緩和ケア病棟に向かいました。
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