旅行好きのAさんは、長期休暇には飛行機で海外旅行へ行きます。ある日、空港へ向かうモノレールに乗っているとき、ベビーカーを押した家族連れが乗ってきました。「家族で旅行か」と微笑ましくみていたのですが、お母さんの行動にAさんは目が離せなくなります。
お母さんは、まずリュックから哺乳瓶を取り出し、ミルクを飲ませます。そしてその後、なんとベビーカーに赤ちゃんを乗せたままの状態でおむつを替え始めました。
この光景を見たAさんは「空港に着いてからでもいいのでは?」と戸惑いを隠せません。お母さんは慣れているのか手際よくおむつ替えをおこない、何食わぬ顔でモノレールを降りてそのまま空港へ向かって歩いて行きました。
もしこれが赤ちゃんではなく、介護が必要な高齢者だったら問題になるように思ったAさん。では赤ちゃんだったら公衆の面前でおむつを替えても許されるのでしょうか。弁護士の齊田貴士さんに話を聞きました。
■公衆の面前でおむつを替える行為は迷惑行為にあたる可能性がある
ー公衆の面前でおむつを替える行為は罪になりますか
たとえば東京都迷惑防止条例や大阪府迷惑条例には、当該行為を禁じる規定はありません。そのため罪にはなりませんが、このような行為をする人が増え、迷惑行為として問題化されれば、新たな規制として追加され、今後は罪になる可能性はあります。とはいえ、電車など不特定多数の人がいる空間でおむつ替えをし、それを不快に感じる人もいるでしょうし、注意する人が現れたらトラブルに発展するかもしれません。そのため罪にはならないものの、推奨できる行為ではないといえます。
ー実際におむつ替えによって罪になったケースはありますか
過去の裁判例を確認しましたが、ありませんでした。裁判例や法律がない理由として、これまでにそうした行動が確認されていなかった、または確認されていたけれども、問題行為として認知されていなかったことが理由と考えられます。
ーお母さんの行為は赤ちゃんの人権侵害に当たらないのでしょうか
保護者には、未成年の子どもと一緒に暮らし、日常の世話や教育を行う親の権利と義務である監護権が認められていますが、子に対する虐待に代表されるように、何でも許されているわけではありません。 ただ事案にもよると思いますが、Aさんが遭遇したケースでのおむつ替え行為については、育児の範疇であるため、赤ちゃんに対する人権侵害とはいえないです。
◆齊田貴士(さいだ・たかし)
神戸大学法科大学院卒業。弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)