海のそば、釣り人にかわいがられる1匹の黒猫──Xユーザーのぺぺ太さん(@pepekurogoma)が出会ったのは、黒猫の「クロ」ちゃん。たくましく生きていたクロちゃんとの間に、ある種の約束のようなものが生まれていったのです。
■心に芽生えた責任と覚悟 “自由を奪う”ことへの葛藤の先に
クロちゃんは、飼い主さんの職場近くに現れた野良猫から生まれた猫でした。海に近いその場所でいろいろな人に可愛がられながら暮らしていたといいます。
「海が近いという事もあり、釣り人やトラックの運転手、様々な人からごはんをもらったり遊んでもらったり、愛されていました。私も最初は『かわいいなぁ』と無責任に思っていましたが、夕方になるとどこか寂しそうで…。休日にごはんを持っていくと、走って出てきてくれるんです。その姿を見て、この子と一緒に暮らしたいと思うようになりました」
一見のびのびと見える野良猫の生活も、実際は過酷そのもの。「ロードキル」の危険や寒さ、空腹との闘いは日常的にありました。
「可愛がられているとはいえ、トラックの往来も激しく、寒さや飢えの中で生きていくには厳しい場所です。“自由を奪う”ことに葛藤はありましたが、保護することを決意しました。保護したのは、クロが1歳のときでした」
こうして、2020年、クロちゃんは飼い主さん家族の一員になりました。
■様子見から一転、“家の主”に クロちゃんの適応力に驚かされて
保護した日から始まった、新しい暮らし。飼い主さんにとって、不安と緊張が入り混じっていたといいます。
「猫を飼うのも初めて、しかも野良猫だったので、インターネットで『野良猫を保護したら』という記事を読み漁りました。『懐かないのが当たり前』とあり、クロのペースに任せようと、無理な接触は控えるようにしていました」
そんな中、ある言葉が飼い主さんの背中を押してくれました。
「獣医師さんに『猫は“猫かわいがり”してもいいんですよ』と言われて、不安が安心に変わりました。構えすぎなくていいんだなって」
当のクロちゃんはというと、環境の変化にもかかわらず、予想外の反応を見せます。
「すぐに『ここは寒くもなくて、ご飯も出てくる安全な場所』と理解したのか、怯える様子はなく、2~3日後には堂々と歩き回っていました。最低でも3カ月は“家庭内野良”状態が続くと覚悟していたんですが、2週間くらいで猫部屋を脱走して、リビングのソファでくつろいでいたんです。その姿を見て、『さすがクロちゃん! 大物!』と喜びました」
■静かな性格に灯った変化 ふたりとともに積み上げる幸せ
保護から数年が経ち、クロちゃんは5歳になりました。性格にも穏やかな変化が表れ始めたといいます。
「あとから迎えた保護猫のごまと暮らすようになってから、クロは遠慮がちだったのが、どんどんおしゃべりになってきました。遊びやご飯の要求もはっきりするように。天真爛漫なごまの存在が良い影響を与えたのかもしれません。もっと自己主張してもいいって、クロも感じたんだと思います」
今では、仕事から帰るとクロちゃんとごまちゃんが玄関まで出迎えてくれるのが日常になっています。
「そろって『おかえり』と迎えてくれます。全身で『好きだよ』って伝えてくれる姿に、どんな疲れも吹き飛びます。寝ている姿、ご飯を食べている姿…変わらない毎日がとても幸せです。ふたりからもらったたくさんの幸せを、これからの時間を通してちゃんと返していきたいです」
今ではすっかり家の一員として、かけがえのない存在になったクロちゃん。これからも、穏やかな日常のなかで、たくさんの幸せを分かち合っていくのでしょう。
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)