家族そろってテーブルを囲み、「いただきます」をして食事を摂る。そんな「当たり前」が難しい子どもたちに、あたたかい食事を提供したいとの想いを抱き、フードリボンプロジェクトに取り組んでいる平谷佐智代さん。大阪府富田林市でカフェ「cafe KaMuNa」を営んで、子どもたちの支援を行う熱き想いを聞いた。
■鍼灸師の仕事を通して見えてきた子どもの「食」問題
鍼灸師として整骨院に勤めていた平谷さんは、難病に苦しむ人のサポートに携わったり、勤務していた整骨院が設立したデイサービスの責任者を務めたりする一方で、満足に食事を摂れない子供が少なくない現状があることに気づいた。貧困、虐待、ヤングケアラー…その他さまざまな事情で、1日3度の食事を摂ることさえ困難な子どもがいるのだ。
「そういう子どもの存在って、なかなか表に出てこないから大人に気づかれにくいのです」
子どもがちゃんと食事を摂れるようにしてあげたい。そんな問題に向き合い、全力で取り組むために、2023年9月、株式会社AquaFolia(アクアフォリア)を設立。近鉄・富田林駅近くに「cafe KaMuNa」を開いた。はじめはカフェを経営しながら子ども食堂を運営するつもりだったが、いざ始めようとすると簡単ではなかった。
「子ども食堂を週に5日間やろうと思っていたのですが、子ども食堂はカフェの営業時間とは別枠で運営しなければいけないという制約がありました。そうすると、スタッフの負担が増えます」
補助金を申請する相談のため役所を訪ねたとき、週に5日間運営する目的を「売名行為なのではないか?」と誤解を受けたこともある。そんな折、偶然知ったのが「フードリボンプロジェクト」の仕組みだった。
フードリボンプロジェクトとは、一般社団法人ロングスプーン協会が進める「子どもたちの今日の1食を、ペイフォワードで支える仕組み」のこと。ペイフォワードには「恩送り」という意味がある。
飲食店を利用するお客さんが、1つ300円のリボンを子どもの1食分として「先払い購入」する。「cafe KaMuNa」では、それを店内のボードに掲示しておく。店を訪れた子どもはリボンを1つ手に取ってレジに渡すと、1食分の食事が無料で提供される。
フードリボンならカフェの営業と並行できるので、運営時間を分ける必要はない。活動を始めると、趣旨に賛同したお客さんがリボンを買ってくれた。
「年配の方も若い方も、広い年齢層の方にご協力いただいています」
とはいえ、カフェの営業もまだまだ軌道に乗らない中での運営は楽ではない。カフェの他にもカルチャースクールや、店舗3階でフリースペースの運営を行いながら、スタッフの人件費と固定費を捻出している。また、リボンは福祉作業所でつくられており、障がい者の雇用創出にも役立っているそうだ。
■フードリボンプロジェクトを広めるために
平谷さんの目下の悩みは、フードリボンプロジェクトの認知度が意外に低いことだ。
「フードリボンって、もっとメジャーな活動だと思っていたんですけど、ご存じの方が意外に少ないです」
せっかく善意でリボンを買ってくれるお客さんがいても、実際にリボンを利用して食事をしに来る子どもが月に1~2人しかいないため、今はリボンが余っている状態だという。
「建前は中学生以下を対象にしていますけど、高校生でもかまいません。ここはご飯食べることだけを目的としているのではなくて、何か困ったことがあるときに『あそこに行ったら、話を聞いてくれるよ』っていう子どもたちの居場所をつくりたいなと思っています」
また、親御さんが体調不良やストレス過多で「今日はご飯をつくるのがつらい」というとき、フードリボンを利用して子どもにごはんを食べさせてほしいという。子どもはフードリボンと引き換えに無料だが、付き添いの大人は880円(税込み)で食べられる。献立は日替わりで、子ども用はおかず2品と汁物1品にごはん、大人用はおかずが3品になる。野菜は、なるべく無農薬を使うようにしているという。
平谷さんは、フードリボンプロジェクトをもっと多くの人に知ってもらおうと、フードリボンの体験イベントも行っている。
9月18日には「フードリボンを使ってパパ&ママお疲れの日イベント」として、食事会が開かれた。
参加した子どもたちに自らフードリボンを取ってもらい、お店のスタッフに渡す。実際に手を動かして、仕組みを理解してもらうのだ。
この日は、親子合わせて約20人が参加。エビマヨとヒジキ煮、カボチャのスープに舌鼓を打った。
また、この日は平谷さんと同じくフードリボンプロジェクトに取り組む女性クラウン(ピエロ)の「ピエコロ」さんもボランティアで参加。子どもたちと一緒に食事を摂った後、バルーンアートで楽しいひと時を過ごした。
「ピエコロ」さんは、日本で数少ない専業クラウンで、保育園や幼稚園、ショッピングモールなどでパフォーマンスを披露している。
「子ども食堂だと、飲食店さん側が資金や労力がすごく大変と聞いています。フードリボンだったら、子どもがいつでもお店に入ってきて、リボンを取って『いただきます』ができて、子どもたちに手を差し伸べてあげられるのが魅力だと感じています」(ピエコロさん)
平谷さんに、今後の目標を伺った。
「このような場所が市町村に最低でもひとつずつあれば、みんなもっと幸せな形になっていくんじゃないかと思っています。小学校の各校区につくるのが目標です」
平谷さんをはじめ、フードリボンプロジェクトに関わる飲食店個々の活動は小さいかもしれないが、それが全国に広がれば大きな輪となり、救われる子どもの数も増えるはずだ。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)