一般的に子どもを出産する際の出産予定日は妊娠40週であり、生まれてくる子どもの平均体重は2500グラム以上です。そんななか、高橋由里絵さんの三男は、妊娠24週4日・664グラムと危険な状態で生まれることに。
その後、彼女と生まれたばかりの三男は、NICU(新生児集中治療室)・GCU(新生児回復室)で約600日を過ごした。退院後も人工呼吸器などの医療的ケアが続くなか、彼女は家族の経験を本にまとめ、医療・教育・福祉の現場へ届ける活動を始めます。
そんな高橋さんは、三男と過ごした日々をどのように考えているのでしょうか。妊娠継続を決めた時や長期入院と在宅生活での思い、書籍に託した願いについて話を聞きました。
■「この子の生命力を信じたい」600日を経て家族5人の生活へ
-早産に至るまでの経緯と、妊娠継続を決めた時の想いをお聞かせください。
妊娠17週ごろから出血があり、19週を過ぎると生理2日目のような大量出血が何日も続きました。薬でも治まらず、20週6日に総合病院を受診すると、そのまま入院。妊娠を諦めるか、継続するかを尋ねられました。流産や障害への不安、家にいる2人の兄のことが頭をよぎりましたが、羊水が少ないなかでも赤ちゃんは成長していました。諦める選択肢はなく、この子の生命力を信じたいと妊娠継続を希望しました。三男は24週4日、664グラムで誕生しました。
-NICU・GCUで過ごした約600日は、どのような時間でしたか。
入院先の長野県立こども病院では、家族も医療者と共にチームの一員となる「ファミリーセンタードケア」に取り組んでいました。家族も医療的ケアに関わり、触れ合いながら、医師や看護師と治療方針を話し合えたことはありがたかったです。一方、生後2週間ごろは呼吸状態が悪く、強いステロイドが効かなければ打つ手がないと告げられました。「明日も生きて会えるだろうか」と毎日面会へ通いました。後半に「退院」という言葉が出た時、ようやく家族5人で暮らせると希望が見えました。
-書籍を、医療・教育・福祉の現場へ寄贈しようと思った理由とは?
書籍を出版して終わりでは、もったいないと思ったからですね。私自身、NICUで過ごした家族の体験をまとめた本になかなか出会えませんでした。私と息子の経験が、必要とする人の希望になればと考え、医療機関だけでなく学校や保育園、福祉の現場へ届けたいと思いました。NICUの現実やファミリーセンタードケアの大切さに加え、親も自分の人生を生きてよいこと、前へ進むだけでなく立ち止まって力を蓄える時間も必要だと伝えたいです。
-退院後の暮らしと、現在必要な医療的ケアについてもお聞きしたいです。
退院当日は「やっと家族5人で過ごせる」という喜びが大きかったです。現在は在宅用人工呼吸器を24時間使用し、気管切開部のケア、胃ろうからの栄養注入、必要に応じた酸素、喀痰吸引が欠かせません。実際に暮らすと、ベッドや入浴方法など想定と違うことも多く、その都度、訪問看護師らと相談しています。外出は機器や荷物が多く、長時間は難しいため、兄2人との休日の過ごし方にも悩みます。三男だけに目が向いていると感じさせないよう、兄弟へできるだけ平等に愛情を注ぐことを大切にしています。
-今後、社会に望むことと、メッセージをお伝えください。
医療的ケア児の預け先や、家族が休息できるレスパイトの場を、もっと身近に増やしてほしいです。クラウドファンディングでは62人が支援し、思いを受け止めてくれる人がいることが心強く感じられました。今後は書籍の寄贈と講演で生の声を届けます。障害や医療的ケアがあるから「かわいそう」と決めつけるのではなく、幸せかどうかは本人が決めること。誰もが病気や障害の当事者になり得るからこそ、どの人も安心して生きられる環境を社会全体で考えられるようになれたらいいなと思います。
♦高橋由里絵(たかはし・ゆりえ)
1987年千葉県生まれ、長野県在住。3人の男の子の母。2023年、三男を妊娠24週4日・664グラムで出産し、NICU・GCUで約600日間の入院生活を経験した。現在は長野県リトルベビーサークル「ひめりんごの会」で、交流会や写真展、市民講座などを通して、小さく生まれた子どもと家族の声を届けている。著書に『ちいさなタカラモノ~664gの命とNICU600日~』。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)























