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復興へ 第18部 この国 震災3年の決算

(4-1)救済の基準 抜け落ちた自営層支援
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 神戸市東灘区にある酒屋の真新しい店内には、「関東煮」「するめ」などのメニューが並ぶ。夕方になると、仕事を終えた会社員らが一杯に立ち寄る。

 「私らかて、自宅が全壊したんと一緒や。でも、愚痴言うてもしょうがない。あほらしいだけや」

 店を経営する女性(54)は、住宅の全・半壊(焼)被害が中心の支援策に、今もやり切れない思いを抱いている。

 自宅のマンションは一部破損だった。しかし、店と倉庫は全壊。九一年に店を拡張した時の借金だけが残った。再建の資金繰りにマンションを売り、店の二階を自宅にした。蓄えをつぎ込んでもなお、二千万円の緊急災害復旧資金を借りなければならなかった。

 「固定客が震災で散らばり、酒の安売りをする店が増えた。主人が死ぬなんて思わなかったし…」。涙声の後は途切れた。

 再開を果たした店は、予想以上に厳しい。復旧資金の返済が始まる来年六月から、月に約三十万円の返済が待つ。公的な支援は、復旧資金の据え置き期間中の利子補給と、税の減免に尽きる。

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 住宅に被害を受けた被災者には、仮設住宅や復興住宅が提供され、家賃軽減措置が取られた。現金給付の生活再建支援金なども、住宅が解体された世帯が対象。支援策の多くは、住宅被害をベースにしている。

 「被災自営業者には、融資だけでは不十分。開業準備金の支給などを考えるべきだった」。元神戸市職員で甲南大経済学部教授の高寄昇三は指摘する。

 震災の税減免措置は、所得や利益が大きい個人・業者ほど、減免の効果が大きい。高寄は「中間所得層や利益が薄い自営層の支援が抜け落ちている」と言う。

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 だれにどんな支援を行うのか。震災の年の三月、関西経営者協会は、国や兵庫県などに、「被災者台帳」の整備を提言している。

 家族や家屋の被災状況、持ち家か借家か、収入、住宅ローンの残高、仕事の実態などを網羅し、「台帳がきっちりできていないと、あらゆる施策を打つことができない」と指摘した。

 提言への回答は、当時の震災担当相、小里貞利から文書で届いた。「国民のプライバシーにかかわる問題で、個人情報保護の観点から慎重な検討を要する」

 提言は日の目を見ないまま、震災直後に被災市町が発行したり災証明が、支援対象を絞る「物差し」になった。

 証明書の主な区分は全壊、半壊、一部破損の三段階だが、多くの施策は全・半壊が対象、一部破損にはほとんど届かない。

 判定にも、混乱があった。再調査を経ても、不満を持つ被災者がいる。判定基準は、六八年の内閣官房審議室長通知に基づくが、具体的な調査方法には触れていない。震災後、神戸市が国に要望した統一的な調査手法の明確化にも、具体的な動きはない。

 厚生省災害救助専門官の下道耕二は「全・半壊の判定は、国の予算措置や救助計画づくりの目安で、安易に支援の基準と結びつくことは疑問」としながらも、「他の支援の目安は難しい」と漏らす。

 試行錯誤を重ねた三年の支援策の軌跡。しかしなお、網からこぼれ落ちた被災者がいる。あれだけの被害を出しながら、実態把握の手法と支援の基準には、まだ答えが出ていない。(敬称略)

1998/1/16

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