ライバル社との競争に勝つために法令や顧客を軽視する。そうした不正が損害保険業界で横行していたことが、またもや明らかになった。相次ぐ不祥事に、消費者の不信は強まるばかりだ。
損保大手4社の保険加入者の氏名や電話番号、契約の満期などの個人情報が、保険代理店を通じて他社に漏れていた。金融庁に命じられて8月末に各社が報告した調査結果によると、漏えいは計約250万件に上る。他社の動向を把握したり、自社の契約に切り替えさせたりするために利用していたという。
4社は東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険。損保業界は再編が進み、この4社の寡占状態にある。
昨年、中古車販売大手のビッグモーター(BM)による自動車保険の保険金不正請求が発覚した件は記憶に新しい。中でも、損保ジャパンは保険代理店でもあるBMの不正を認識した後も取引を再開し、社長とグループ会長の辞任に発展した。
カルテルの疑いも出ている。企業や自治体向けの保険で保険料の低下を防ぐために、4社が事前に保険料を調整していたなどとして、昨年、金融庁が業務改善命令を出した。公正取引委員会は総額20億円の課徴金納付を命じる方針だ。
コンプライアンス(法令順守)の欠如にあぜんとする。各社の経営責任は極めて重い。なれ合いとも言える業界全体の体質を根本から改めねばならない。信頼回復には解体的な出直しが必要である。
顧客情報の漏えいは、複数の損保の商品を取り扱う「乗合(のりあい)代理店」で起きた。手法は2種類に大別され、一つは満期が近い顧客に代理店が更新を働きかけるメールを送る際に、他社の担当者にも一斉に送信していた。もう一つは、損保から代理店に出向した社員が他社の契約情報を抜き取って自社に流していた。
損保各社は代理店を監督する立場にあるが、自社のシェア拡大を優先し、適切な指導を怠っていた。BMの保険金不正請求問題と同様の構造である。代理店の企業統治はもちろん、損保からの出向の在り方を早急に見直すべきだ。
生命保険業界でも代理店とのもたれ合いの疑惑が浮上した。自社商品を優先的に販売してもらうために、広告費名目で代理店に多額の現金を払っていないか、金融庁は実態調査を国内の生保全41社に拡大する。
損保関係者は「業界の常識は世間の非常識という事実を認識した」と話す。金融庁の監督責任も問われている。信頼回復と再発防止に向け、厳しい対処を求める。