自分の記念碑を建ててほしいと遺言に記す父親 ※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)
自分の記念碑を建ててほしいと遺言に記す父親 ※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)

先日、長く闘病生活を送っていた父親を看取ったAさんは、遺言書の内容を知って意外な願いに目を疑いました。「自分の死後、記念碑を建ててほしい」という父親の最期の願いが書かれていたのです。

Aさんは当初、父親の人柄を偲んで小さな石碑でも建てればいいのかと考えたものの、設置場所の確保や維持管理費など、考えれば考えるほど現実的な問題が浮かび上がってきます。

父親は生前、家族のために倹約して生きてきた人だっただけに、最後にこのような大きな出費を求めるとは意外でした。Aさんには兄弟が2人おり、すでに1人は「父の意思だから」と記念碑建立に賛成していましたが、もう一人は「そんな無駄なことに相続財産を使うべきではない」と強く反対していたのです。

Aさん自身は父親の遺影を見つめながら、父の最期の願いを叶えたい気持ちと、現実的な経済的負担の間で板挟みになっていたのです。法的には遺言書の内容をどこまで実行する義務があるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに話を聞きました。

ー記念碑は建てないといけないのでしょうか

遺言の自由があるとはいえ、記念碑を建立する遺言は法的に必ず実行する必要はありません。遺言できる事柄は限定されているからです。

遺言書に記載することで法的な効力を有する事項のことを遺言事項といい、民法その他の法律に規定されています。記念碑についてはこの遺言事項の対象外だと考えられます。

ー遺言事項に該当するものはどのようなものなのでしょうか

相続及び財産に関する事項であれば、

①相続分の指定や指定委託
②遺産分割方法の指定や指定委託
③特別受益の持ち戻しの免除
④一定期間内での遺産分割の禁止
⑤相続人相互間での担保責任の分担
⑥相続財産の全部または一部の処分(遺贈等がこれに該当)
⑦一般財団法人の設立
⑧一般財団法人への財産の拠出
⑨信託の設定
⑩配偶者居住権の設定
⑪遺留分侵害額の負担割合の指定
⑫相続財産に属しない権利の遺贈についての別段の意思表示
⑬相続人の廃除や廃除の取消し

が該当し、身分に関する事項であれば、

⑭認知
⑮未成年後見人、未成年後見監督人の指定

が該当します。その他の事項として、

⑯祭祀主宰者(いわゆる「墓守り」)の指定
⑰遺言執行者の指定、指定の委託
⑱遺言の撤回
⑲生命保険等の保険金受取人の変更

などが挙げられます。

記念碑の建立はこれら遺言事項に含まれるとは考えにくいため、従わなくていいでしょう。

ー父親の思いはどのような扱いになるのでしょうか

遺言書に記載される、法的効力はないものの個人的なメッセージや思いを記した「付言事項」として扱われるものと考えます。付言事項は遺言者の最後の言葉となるものであり、相続人にとっても重要なメッセージとして受け取られることが期待されます。法的効力がないため相続人や遺言執行者に義務は生じませんが、父親のたっての願いとして、親族間での話し合いで結論していただくことになります。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)