書店で同じ本を手に取り、出会いが生まれる…。そんな使い古されたラブコメネタは現実だと起きる可能性がゼロに近い。だが、マッチングサービス「Chapters(チャプターズ)」なら、そんな胸キュンを体感できる。
開発者の森本萌乃さんは、ジブリ作品『耳をすませば』のピュアなラブストーリーに感涙。本を介した出会いや、知らない良作との出会いを提供したいと思い、チャプターズを立ち上げた。
■ジブリ作品『耳をすませば』のピュアな恋模様に心打たれて…
森本さんが読書をするようになったのは、高校生の頃。3年間で100冊の読書をカリキュラムにしていた学校であったため、通学中に読書をするようになった。
ただ、読書好きとなったのは、20代半ばの頃。仕事で自分の持ち味を活かしたい。そう思った時、小説を読んでいるマーケター・プランナーが少ないことに気づいた。
「読書を起点に考え事をしたら個性を出せるかなと思い、読書をするようになりました。そしたら、のめりんでしまって。気がつけば仕事であり、一番の趣味になっていました」
チャプターズ開発のきっかけとなったのは、ジブリ作品『耳をすませば』に感涙したことだった。当時、マッチングアプリでの婚活に疲弊していた森本さんは主人公たちが“自分の夢”という前向きな障壁に悩むラブストーリーの美しさに心打たれたという。
このくらいピュアで、雑念のない恋の始まりがほしい。そう思い、まだ見ぬ本との出会いや本を介した出会いが得られるチャプターズの開発に取り組み始めた。
■月30作品ほどに触れて、利用者へ勧める本を選書
チャプターズは、月額制のサブスク書店だ。森本さんらスタッフは毎月、季節やトレンドを考慮し、実際に読んで良いと思えた作品を3冊、利用者に提案。利用者は、書籍の内容をイメージして描かれたイラストや推薦文などを頼りに、直感で読みたい1冊を選ぶ。
書籍は、香水やスープなどのプチギフトと共に1週間ほどで手元に届く。その時に初めて、自分が選んだ本のタイトルを知れるのは、チャプターズならではの魅力だ。
ちなみに、選書は基本的に森本さんともう1名のスタッフで行っている。
「選書は一番大な仕事。ひと月に平均で30作品ほどに触れ、どちらかが必ず読了している本のみを選んでいます。AIの時代でも、選書においては人力に敵うものがないと思うから」
選書時には書店員や出版社の力を借りることもあるが、その場合も書籍をリスト化してもらい、自分たちで必ず読んでから選書をする。あえて、アナログを貫き通す姿勢がチャプターズというブランドの確立に繋がったのだ。
「選書時は、久しぶりに読書をする方の1冊目に間違いない本を意識しています。だから、100ページ読んで続きが気になって仕方ない作品を入れるようにしているんです」
「読了しなくていいや」という心持ちで読み始めたのに、手が止まらない…。そんな瞬間を提供したくて、森本さんらは選書に力を注ぐ。
「毎月の選書作業は決して楽ではないので、『チャプターズで読書にハマった』『習慣化した』というお声を頂くと本当に嬉しい。頑張ってよかったと思えます」
■同じ本を読んだ人同士が繋がれるビデオチャットが「婚活の場」に!
届いた本の感想は、チャプターズのビデオチャット(=アペロ)で話し合うことができる。アペロは、同じ本を読んだ人同士が話せるシステムになっており、会話が弾みやすい。一般的なマッチングサービスのようなプロフィールではなく、本の感想から相手の価値観が知れるのだ。
アペロには利用者同士で誘い合える機能もあるが、日程入力するだけで自動マッチングできる機能もある。
「自動マッチングの場合は、年齢差がプラスマイナス7歳差になるようにしています。過去の運営データから7歳差の範囲が一番、連絡先の交換率が高いという結果が出たからです」
アペロは20分間という区切りがあり、あらかじめトークテーマも用意されている。途中退出も可能で、前半の10分間は互いの顔を隠した状態で本の感想を話す。連絡先が開示され、メッセージがやりとりできるのは、アペロ終了後に互いが承諾した場合のみだ。
なお、チャプターズは既婚者も利用できるが、既婚者フィルターがつき、アペロへの参加はできない。森本さんいわく、全員が課金ユーザーであり、読書をするという一定のハードルがあるため、ひやかし目的の利用者はほとんどおらず、安心して利用してもらえていると言う。
「全員は追いきれていませんが、毎月1~3組ほど交際のご報告を頂いています。昨年は10組ほど、ご結婚のご報告を頂きました。ご結婚のご報告を受けるたび、社名に掲げた“ロマンチック”を実感しますし、社内はお祭り騒ぎになります(笑)」
■よりパーソナルに刺さる選書をしたくて実店舗をオープン!
2024年、森本さんは東京・市ヶ谷にブックカフェ「チャイと選書」というチャプターズの実店舗をオープンした
「チャプターズは“恋する書店”として恋愛に特化しましたが、お客様から選書への嬉しい評価を頂く機会も多いので、よりパーソナルに刺さる選書専門店をオープンしたいと思ったんです」
お店では書棚がスタッフカウンターの後ろにあり、来店客は自分で本に触れられない。
「面倒臭いと思う方もいるかもしれませんが、何を読んだらいいか分からないと悩んでいる方を救いたいし、そんなお声に耳を傾けたくて、こうした作りにしました」
オープンから1年間で森本さんらが選書を行った人数は。なんと300名以上。最近ではリピーターも増えている。
「本が読みたいと思える雰囲気を作っていくことが、チャプターズの使命だと思っています。選書がいいとか、チャイがおいしいらしいとか理由は何でもいいので、本から離れている人が気軽にアクセスできるよう、これからもたくさん手を差し伸べていきたいです」
そう話す森本さんは今年5月から、選書マイスター養成講座もスタート。講座では、森本さんらが蓄積した“選書のアセット”が学べるそうで、初級受講者はすでに300名を超えている。
「自分が勧めた本を、誰かが読んでくれることって『本が好き』という感情を認めてもらえるような幸せな体験だと思う。そんな喜びの感じ方も、もっと広がってほしいです」
“遠くにいる読書好きの友達”くらいの距離感で、読書の魅力を伝え続けたい。そう思う森本さんは、顔が見える人から勧められる本の価値を信じている。
「本は時に、本人以上にその人を語るし、その人に近づけるように思います。友達や恋人、家族から勧められた本って、面白いかどうかに関わらず、その人を知れる感覚があるから、読んで後悔しない。読書はひとりで楽しくできる“孤独なエンタメ”ではあるけれど、だからこそ繋がれることもあると思います」
読書離れが叫ばれる今、森本さんの考えやチャプターズのサービスは心に響くものがある。一冊の本との出会いは私たちが思っている以上に、自分の人生を大きく変えるきっかけになるのかもしれない。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)

























