手渡された直後に落としたたこ焼き…作り直してもらえる? ※画像はイメージです(sand555/stock.adobe.com)
手渡された直後に落としたたこ焼き…作り直してもらえる? ※画像はイメージです(sand555/stock.adobe.com)

子どもの手を引いて、神社の祭りを訪れたAさんは、お目当てのたこ焼きを求めて人波をかき分けていました。店の前には行列ができており、しばらく並んでようやく自分たちの番が回ってきます。

Aさんは店主から熱々の舟皿を受け取り、子どもに渡そうと身をかがめました。その瞬間、すぐ横を通り過ぎた人に肩が軽くぶつかり、Aさんの手元がぐらりと揺れました。あっ、と思った時にはもう遅く、手の中にあったはずのたこ焼きは宙を舞い、地面に無残に散らばってしまったのです。

子どもの顔がみるみるうちに曇り、大きな瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうでした。Aさんは自分の不注意を悔やみ、すぐに「ごめんね、新しいのを買うから」と慰めましたが、心の中は複雑でした。もちろん自分の責任ですが、受け取った本当に直後の出来事でした。もしかしたら新しいものと交換してくれるかもしれない、という淡い期待が頭をよぎったのです。

このように商品を受け取った直後に落としてしまった場合、店側に交換を求めることはできるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞きました。

■たこ焼きの所有権が誰のものなのかがポイント

ー法的に、商品の「所有権」はどのタイミングで店から客に移るのですか

商品の所有権が移転するタイミングは、法律上「売買契約が成立した時」とされています。具体的には、店側が「これを売ります」という意思を示し、客側が「これを買います」という意思を示した、その両者の意思が合致した瞬間に契約は成立し、所有権は客に移転するのが原則です。

たこ焼きの屋台のような場面では、客が「たこ焼きを一つください」と注文し、店主が「はい、どうぞ」と商品を差し出した時点で、売買契約は成立していると解釈できます。お金を支払う前であっても、この意思の合致があれば所有権は客に移っている、と考えるのが法律の基本的な考え方です。

ー所有権が客に移った後で商品を落としてしまった場合、損失は誰が負担するのですか

所有権が客に移った後に、客自身の不注意で商品を落としてしまった場合、その損失は原則として「客が負担」することになります。

法律には「危険負担」という考え方があります。これは、商品が天災や当事者双方の責任ではない理由で失われたり壊れたりした場合、そのリスク(危険)は所有権を持つ者が負う、というものです。今回は客自身の過失ですので、なおさら客がその損失を負担するのが原則となります。

ー店側の過失が原因で落としてしまった場合はどうなりますか

もし店側に過失があった場合、それは店側が「商品を完全な状態で引き渡す」という契約上の義務を果たしていないことになります。これを法律用語で「債務不履行」と呼びます。

例えば、舟皿の底が抜けかけていた、店主が手を滑らせるような形で渡してきた、といった具体的な原因が店側にある場合は、客は店に対して「完全な商品の引渡し」を求めることができます。つまり、新品との交換や、代金の返金を要求する正当な権利があります。

ー法的な義務はないとしても、交換に応じてくれる店があるのはなぜでしょうか

法的な義務がないにもかかわらず、多くの店が交換に応じてくれるのは、あくまでも顧客サービスの一環と考えられます。がっかりしている顧客に、温かい対応をすれば顧客満足度も向上するでしょう。

法的な権利がないとしても、顧客の中には交換を強く求める場合もあります。他の顧客もいる前で口論になるくらいなら、スムーズに交換に応じたほうがトラブルを回避できると考えるケースもあるでしょう。

いずれにせよ、自分が落としても交換してもらえるだろうと安易に考えるのは、やめたほうがいいでしょう。

◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)