早期退職したものの現実は厳しく… ※画像はイメージです(aijiro/stock.adobe.com)
早期退職したものの現実は厳しく… ※画像はイメージです(aijiro/stock.adobe.com)

早期退職優遇制度の案内に、50代のAさんは目を奪われました。上乗せされた退職金の数字を想像し、会社の停滞感から解放される未来に口元が緩みます。具体的な計画はないものの、これまでの肩書があれば何とかなるだろうと、迷わず応募用紙にサインしましたが、現実は残酷でした。

数十社に応募しても面接に進めるのは数社のみです。ようやくたどり着いた面接では、これまでの実績を弊社では通用しないと一蹴されます。プライドはズタズタに引き裂かれ、頼みの綱だった退職金はすぐに底が尽き始めました。

もんもんとしていたところ、同期Bさんの活躍をSNSで目にします。同じ制度で退職したBさんは、専門職として独立し、生き生きと講演する姿がそこにはありました。何が2人の運命を分けたでしょうか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。

■「なぜ辞めるのか」に即答できなければ赤信号

ー早期退職後の「後悔」につながる考え方はどのようなものでしょうか

第一に、金銭的な見通しの甘さです。割り増しがあることでお得な感じがしますが、退職金は定期的な収入ではなく限りある資産です。退職後は会社の社会保険から外れ、健康保険料や年金などを全額自己負担しなければなりません。現役時代に給与が高かった方ほどその負担額は大きく、想定以上にお金が減っていく現実に直面しがちです。

第二に、キャリアに対する過信です。「部長だった」という過去の役職やプライドは、転職市場では通用しません。採用企業が知りたいのは、役職名ではなく「その人自身の具体的なスキルや経験を、自社でどのように活かせるのか」です。

ー制度をチャンスに変える人は、どのような準備やマインドセットを持っていますか

チャンスに変えるBさんのような方は、「自分のキャリアを自分で構築する」という意識を持っています。退職前から徹底した「キャリアの棚卸し」を行い、「自分はこれまでどのような想いを持って、何を成し遂げ、どのようなスキルを身につけたのか」などを、他者に伝わる具体的な言葉で語れるレベルまで深掘りしています。自分の経験や実績を、事実だけでなく価値観や人間性を盛り込んだ物語として語れるほどにです。深い自己分析を通じて、自身の強みと市場価値を冷静に把握し、独立や専門職への転職といった具体的な選択肢を、計画的に準備しています。

ー早期退職に応募する前に、必ず自問すべき「チェックリスト」はありますか

ここまで読んで「ドキッ」とした方もいるかもしれません。ですが、焦る必要はありません。まずは、次の問いに一つひとつ答えてみることから始めてください。

【経済面のチェックリスト】
・毎月の支出と、退職後に支払う税金や健康保険料等の概算額を把握していますか?
・退職金と貯蓄だけで最低生活できる期間は?
・希望する転職先の現実的な年収相場を調べていますか?

【キャリア面のチェックリスト】
・業務経験を、提供できる価値として整理できていますか?
・実績を結果に至るまでの過程や価値観、考え方を交えて語れますか?
・自分のスキルや経験が、現在の市場を理解した上で客観的に把握できていますか?
・なぜ、このタイミングで会社を辞める必要があるのですか?
・退職後の働き方や人生について鮮明にイメージできていますか?

早期退職は「逃げ」ではなく、「選択」です。だからこそ、「早期退職すること」自体を目的にするのではなく、「早期退職した先で何を実現したいのか」を明確にするために、まずはご自身のキャリアと人生に真正面から向き合ってみましょう。

◆七野綾音(しちのあやね)
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)