1足500円で販売中(提供:石井文泉堂)
1足500円で販売中(提供:石井文泉堂)

成長に伴いサイズアウトした幼児の靴を、アップサイクルするプロジェクトが進行中だ。地元のクリーニング店が幼児の靴を回収し、クリーニングして500円で販売。収益は子ども食堂へ寄付される。その名も「クツクツ未来応援プロジェクト」。発起人のひとり、大阪市城東区の「石井文泉堂」の石井康裕さんに話を聞いた。

■ 子どもの将来を応援したい

9月29日を「くつくつ」と読み替えて、サイズアウトした幼児靴を9月に回収。現在はきれいに洗浄した靴を、ワンコイン500円販売している「クツクツ未来応援プロジェクト」。岩手県から福岡県まで232店舗のクリーニング店が参加した。この初の試みで集まった靴は、約4000足。収益は、地元の子ども食堂へ寄付される。

とはいえ、洗浄にはコストもかかるので強制はせず、1足あたり300円以上の寄付でOK。販売方法も、店頭のほかに近所のイベントやマルシェなどに出店するなどさまざまだ。石井さんは「あまり細かく決めすぎず、クリーニング店の方々がやりやすいようサポートしています」。

■クリーニング店も応援したい!発案者は4人の子を持つ親

これら232店舗は、クリーニング店専門の印刷会社である石井文泉堂の顧客だ。石井さんは、プロジェクトを行った背景について、昨今の「クリーニング店離れ」を挙げた。

「クリーニング店に持ち込まれる服のうち、約6割がワイシャツやスーツ。それらが働き方改革で減り、さらにコロナ禍で減り、現在も回復したとはいえず“あきらめ倒産”が続いています」

クリーニング店の閑散期は1~2月と8~9月だが、夏の猛暑でワイシャツを着る社員がさらに減少した。

「しかし世の中の流れもあり、閑散期を支えてきたワイシャツやスーツのクリーニング需要が元に戻るとは考えにくい」

そこで出たのが、スニーカークリーニングだった。韓国では、スニーカーをクリーニングに出す文化があり、日本でも2018年からサービスが始まっている。しかし日本ではなかなか定着していない。

「このクツクツ未来応援プロジェクトの発案者は、4人の子を持つ親御さんです。特に幼児だと、どんどん成長してどんどん履けない靴が出てくる。譲るのもいいけど、単にお古を渡すのではなく、きれいにして渡せたらうれしいよね、と」

プロジェクトには、幼児の親御さん向けにスニーカークリーニングの認知を広めること。また夏の閑散期に来店してもらい、あらためてクリーニングの需要喚起を促す狙いがあった。

実はクリーニング店の新規顧客は、全体のわずか約3%で、固定客が大半。とはいえその半数は春や秋の衣替えなどで、年2回ほどしか利用しない季節顧客だ。それだけ期間が空けば、再び同じ店を訪れる保証もない。

■ 学生服での経験がプロジェクトの支え

石井さんには、今回と似たプロジェクトを開催した経験がある。2021年の冬に行った「学生服無料クリーニングプロジェクト」だ。コロナ禍で通学できない学生を対象に、学生服を無料できれいにし、卒業式の思い出づくりを応援するプロジェクトで、全国約600店舗が参加した。しかし無料だとクリーニング店の負担が大きく、また新規顧客の獲得にも至らなかったため、2022年で終了した。

「一方でお客からは好評で、メディアから取材を受けた店もありました」

「クツクツ未来応援プロジェクト」は、11月初旬時点で来年も実施予定。対象も幼児靴だけでなく、要望の多かった小学生の靴まで広げる計画だ。

「まだ企画中ですが、ほかにも学生服を500円でクリーニングするプロジェクトや、卒業生の制服を寄付いただいてクリーニングし、地域の学校やPTAに寄付するプロジェクトも考えています」

一連のプロジェクトを実行する理由について、石井さんはこうも語る。

「売り上げを上げようにも、店舗ごとの努力には限界があります。そこで業界の事情を知る私どものアイデアで、収益のプラットフォームを作ってご提供すれば、業界全体の活性化につながると考えました」

クリーニング店は個人情報を100%もらえて、しかも顧客の80%が周辺500m以内に住んでいるという、いまどき珍しい商売だ。その地域密着性を生かし、地域ブランディングの可能性も視野に入れているという。

■全国にたった4社のクリーニング店に特化した印刷とは?

石井文泉堂は、クリーニング店向けにタグを印刷して納品している会社。よくクリーニングから戻ってきた服についている、あの紙のタグだ。

「タグに文字を印刷する会社は、いま日本に4社しかありません。さらに紙を製造する会社は、日本に2社しかないのです」

ちなみにクリーニングのタグは誤ってほかのお客へ渡すことのないよう、預った時点で店が付ける。そのため、その後の洗浄に耐えうる特殊紙とインクが使われている。戻ってきた服から早々に外していたあのタグは、濡れても繊維がほどけない紙とインクで作られたレアものなのだ。

「石井文泉堂は、私で3代目。これからも本業のタグ事業をはじめホームページ作成、公式LINEの配信の代行、さらに今回のプロジェクトのような業界の集客課題や季節需要の谷間を埋める企画や取り組みで、クリーニング業界の発展のために努力していきます」

(まいどなニュース特約・國松 珠実)