「交通事故で死んだ猫に似ているから、この子がほしい」
そう言って里親希望の連絡をしてきた人物に対し、迷い猫などを保護している大分県別府市の老舗温泉宿「新玉旅館」は、きっぱりと断りを入れたという。その経緯は、旅館で暮らす猫さんたちの様子を発信している「にゃんたまチャンネル」(@nyantamach222)で公表された。
相手が持ち出したのは、現金10万円。それでも、答えは変わらなかった。その中心にいたのが、甘えん坊で膝の上が大好きな保護猫「マルくん」だ。
■「外に出す飼い方」は絶対に認められなかった
最初の問い合わせは電話だったという。
「猫は1匹いるけど、家と外を自由に行き来させている」
「以前飼っていた猫は、いつの間にかいなくなった」
そんな話を聞き、旅館側は強い不安を覚えた。
「外に出す飼い方は、交通事故や感染症のリスクが高い。それが原因で前の猫が亡くなっているなら、マルくんも同じ運命になる可能性が高い」
さらに、飼い猫にウイルス検査(猫エイズ・白血病)すらしていなかったことも分かり、「検査と完全室内飼いが条件」と伝えたが、相手はそれを受け入れなかった。
■10日後、旅館に現れた“10万円”
それから約10日後、その人物は新玉旅館を直接訪れた。
「やっぱりマルくんが欲しい。これでいいでしょ?」
そう言って差し出されたのが、10万円の現金だった。しかし、旅館側はこう言い切る。
「猫をお金で売ることはしません。私たちは“より幸せになれる家庭”にしか譲らない」
実際、マルくんは2~3年かけて育ててきた大切な保護猫。食事代、医療費、手間を考えれば10万円など到底足りないが、そもそもお金の問題ではなかった。
「その10万円があるなら、今飼っている猫の検査や予防接種をしてほしい」
そう伝えても、相手の考えは変わらなかったという。
■「また事故に遭う猫を増やすわけにはいかない」
この里親希望者は、「亡くなった猫に似ているから」という理由でマルくんを欲しがった。だが、外に出す飼い方を続ければ、また事故で死ぬ可能性が高い。
「それって、命を“取り替え可能な存在”として扱っているのと同じ。そんなところに、この子を渡すわけにはいかない」
旅館側は、はっきりそう語る。
■保護猫は「選ばせる」のではなく「相性で決める」
同旅館では、猫を譲渡する際、必ず実際に触れ合ってもらうという。
「見た目じゃなくて、“この子があなたを選ぶか”が大事。一緒に過ごして、相性が合う子を迎えてほしい」
実際に譲渡された猫たちは、写真を送ってきたり、旅行中に預けに来たりと、人と猫の信頼関係が続いている家庭ばかりだという。
「外飼いはもう時代遅れ」
今も「猫は外に出すもの」「事故は仕方ない」と考える人は少なくない。しかし法律や動物福祉の考え方は、確実に変わってきている。
「これからは“完全室内飼い”が基本。外に出せば、事故も病気もトラブルも増えるだけです」
■ マルくんが幸せになれる場所
マルくんは、人が大好きで、甘えん坊。ひとりぼっちが苦手で、誰かが家にいる家庭が理想だという。
「おじいちゃんおばあちゃんと娘さんがいるような家、常に誰かのそばにいられる家庭が、この子には合っている」
命を“似ているから”で選ぶのではなく、“この子が幸せになれるか”で選んでほしい。それが、「新玉旅館」が守り続けている一線だ。
◇ ◇
里親募集中の猫たちはYouTubeのライブ配信で見ることができます。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)























