美容師のように手に職をつける仕事では、技術を身につけるための自主的な努力も重視されがちです。時には終業後に店へ残り、練習に励むこともあるでしょう。
しかし、どこまでが自分のための練習で、どこからが残業扱いになるのかは判断が難しいポイントです。たとえばタイムカードを切った後で自主練をしないと先輩から「なんで練習しないんだよ!いつまで見習いでいるつもりだ!」と怒られてしまう場合は、どのように対応するべきなのでしょうか。
その線引きについて、社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
■「強制性」があるかがポイント!
ー自主練習であっても、残業代が支払われる判断基準は何ですか?
最大のポイントは、その練習に強制性があるかどうかです。会社や店長から「やっておけ」と指示されたり、練習に参加しないと昇進や出世に響いたりする場合は、名目が自主練習であっても実質的な業務命令とみなされます。
業務に必要な練習であり、個人の自由な意思で断ることができない状態であれば、法的な労働時間に該当し、会社側には残業代の支払い義務が発生すると考えられます。
ー「残らないと怒られる」「残らないと居づらい」環境は強制にあたりますか?
明確に強制とみなされる可能性が高いといえます。直接的な命令がなくても、「練習しないと叱責される」「残らないと居づらくなる」といった環境は、労働者に実質的な強制力を働かせているためです。
不参加による不利益が示唆されている場合、本人の自発的な意思による練習とは認められません。心理的な圧迫によって拒否できない状況を作っている時点で、労働時間と判定される要因になります。
ー先輩社員が付き添って指導している時間は、労働時間に含まれますか?
先輩が会社からの指示や業務の一環として付き添い、指導を行っている場合は労働時間とみなされます。指導する先輩側にとっても業務命令となるためです。
ただし、後輩が完全な自発的意思で練習を始め、先輩が好意や個人的な親切心だけでアドバイスをしているようなケースでは、判断が分かれることもあります。指示やノルマが伴う指導であれば、双方にとって労働時間として扱われるのが原則です。
ータイムカードを強制的に切らせて練習させるような行為は違法ですか?
完全に違法行為(労働時間の不適正な把握)となります。会社側が打刻を強制して実際の労働時間を隠そうとすることは認められません。
万が一トラブルになった際に備え、実際の練習時間や指示内容を日記や手帳に記録したり、先輩とのLINEのやり取り、SNSの投稿履歴、店の施錠・退室記録などを証拠として残しておきましょう。客観的な実態を示す証拠があれば、後から残業代を請求することが可能です。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ) 社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)























