入社10年目の32歳会社員Aさんは、4月の人事評価で係長に昇格しました。基本給は28万円から30万円へアップし、5月の給与明細を確認すると、手取り額も増えていました。じつはAさんは前年度も昇給しており、順調な昇進にますます仕事のやる気を燃やしていたのです。
ところが6月になると状況が一変します。手取り額は5月よりも減っており、「昇格したばかりなのに、なぜ下がるのだろうか」と戸惑いました。同僚に相談すると「所得税のせいじゃない?」と言われましたが、昇給したはずなのに手取り給与が減っていることに納得できません。
給料が上がったのに手取りが増えない、あるいは月によって増減するのはなぜでしょうか。ファイナンシャルプランナーの橋本ひとみさんに、給与の仕組みについて話を聞きました。
■手取りは、今回の昇給ではなく“少し前の給料” に影響 夏以降はさらに減少するケースも
ー月によって手取りが増えたり減ったりすることは実際に起こり得るのでしょうか
ケースによりますが、起こり得ます。
給与から天引きされる住民税や社会保険料は、昇給直後の給料ではなく数カ月から1年以上前の給料をもとに金額が決まる仕組みになっているからです。
ー昇給して所得税が上がるのは分かりますが、昇給額以上に税金がかかることはあるのでしょうか
制度上、それはありません。日本の所得税は「超過累進課税」という仕組みで、所得を金額の範囲ごとに区分し、区分ごとに異なる税率をかけていきます。
たとえば昇給で所得が増え、これまで10%だった税率区分から20%の区分にまたがったとしても、20%がかかるのは新しく区分をまたいだ部分の金額だけです。10%の区分にすでに収まっていた部分の税率は変わりません。
そのため、昇給によって増える所得税はあくまで昇給額の一部にとどまり、昇給額そのものを上回ることはありません。
Aさんの同僚が口にした「所得税のせい」という見立ては少々言葉が足りないといえます。
ーでは、6月に手取りが減ったのはなぜでしょうか
6月というタイミングから、住民税の影響を受けたと考えられます。
住民税は前年1月から12月の所得をもとに計算され、毎年6月に新しい税額へ切り替わります。Aさんの場合、6月に天引きされている住民税は4月の昇給分ではなく、前年度に昇給した分の所得をもとに算出されたものです。
仮に前年にも月給が数万円上がっていたとすると、所得の増加分に応じて住民税額は基本的には増える計算になります。
ー他に、遅れて反映されるものはありますか
9月分の給与ではもう一段階手取りが変わる可能性があります。
社会保険料は4月から6月に実際に支払われた給与の平均をもとに標準報酬月額を決め直す「算定基礎(定時決定)」という仕組みがあり、新しい保険料は9月分から切り替わります。
Aさんの場合、4月の昇給を含む3カ月の平均給与で等級が上がれば、社会保険料が増える可能性があるのです。
ただし実際に給与から天引きされるタイミングについては、当月徴収か翌月徴収かなど会社の給与規定によって前後します。
このように、1回の昇給の影響が、1年以上かけて段階的に給与明細へ現れていく仕組みのため、単純に所得税だけが影響しているわけではありません。
◆橋本ひとみ(はしもと・ひとみ) 元銀行員ファイナンシャルプランナー
銀行勤務12年を経て、現在は複数企業の経理代行をおこなう。法人営業や富裕層向け資産運用コンサルティングの経験に加え、ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引士の資格を持つ。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)























