暗号設計者として国際学会での論文発表の機会を得た田中篤さん=神戸市中央区港島南町7、兵庫県立大神戸情報科学キャンパス
暗号設計者として国際学会での論文発表の機会を得た田中篤さん=神戸市中央区港島南町7、兵庫県立大神戸情報科学キャンパス

 世界最速の処理能力を持つ暗号について研究する兵庫県立大大学院の院生が、昨年に事業を立ち上げたと耳にした。情報科学研究科の修士2年、田中篤さん(24)=西宮市。研究論文を国際会議で発表するなど、気鋭の若手研究者だ。いったいどんなスタートアップ(新興企業)で、資金はどこのベンチャーキャピタルから調達したのか-などと考えながら約束した取材に出向くと、田中さんは駄菓子を積み込んだリヤカーを引いて現れた。(大盛周平)

■気鋭の若手、二足のわらじ

 田中さんは4歳から20歳まで神戸市垂水区で過ごした。関西学院大理工学部(現・工学部)ではロボットを研究したが、暗号技術研究の第一人者で県立大大学院教授の五十部孝典さん(41)の存在を知り、「人を守るための技術を究めたい」と同大学院に進んだ。

 大量の情報を高速でやりとりできるとして、各国が開発にしのぎを削る「第6世代(6G)移動通信システム」。その実現には、プライバシー情報などを守る暗号技術が欠かせない。田中さんは「ブロック暗号」と呼ばれる暗号を設計。安全性はそのままに従来の約1・6倍の処理速度を持つ世界最速の暗号「ASURA(アシュラ)」を同僚らと生み出し、研究論文の第1筆者となった。

 論文を昨年12月にインドで開かれた国際会議で発表し、田中さんは暗号研究者として実績を刻んだ。「世界中の優秀な研究者が集まる国際会議で選ばれるのは25%程度。修士でそこまでいける人はなかなかいない」と五十部教授は話す。