寒風に吹かれながら通行人に笑みを浮かべるミニスカートの女性、千鳥足のサラリーマン-。西宮駅から数分ほど南東へ歩いた西宮市戸田町には、スナックやガールズバーなどが軒を連ねる。家族連れらでにぎわう駅前とは一転、妖艶な顔を持つ一帯はかつて、「裏町」と呼ばれていた。
「だいたいこの辺りやね」。「ずぼらや金物店」店主の織田武磨さん(86)=西宮市=が昭和初期の古地図を指さした。「戦前は遊郭があったんや」
今から約120年前、風紀上の観点から、散在していた貸座敷を現在の戸田町付近に集め、「西宮遊郭」ができた。阪神間で唯一の遊郭で、大正時代の末には約350人の娼妓(しょうぎ)を抱え、県内では神戸の福原に次いでにぎわったという。親からは「行くな」と念を押された織田さんだったが、幼少期、遊びに夢中になって足を踏み入れたことがあった。
























