娘の聖良さん(左)とカフェを営む元女子プロレスラーの新井磨美さん=姫路市家島町真浦
娘の聖良さん(左)とカフェを営む元女子プロレスラーの新井磨美さん=姫路市家島町真浦

 かつて「マミ熊野」のリングネームで活躍した女子プロレスラーが、播磨灘に浮かぶ家島(姫路市家島町)で、カフェを開業した。全日本女子プロレス(全女)に4年間、所属した同島出身の新井(旧姓熊野)磨美さん(65)。現役時代に悪役レスラーだった面影はみじんもなく、優しい笑顔で島民や観光客を迎えている。(辰巳直之)

■自ら望んでヒール(悪役)に、年間約300試合戦ったことも

 今年8月にオープンした「porto(ポルト)」。港の風景を一望できる店舗を、三女の聖良さん(32)と2人で切り盛りする。メニューも豊富で、朝のモーニングセットのほか、海の幸を使った料理やスイーツなども提供する。

 新井さんは1977年、家島高校を中退して上京し、憧れていたプロレス界の門をたたいた。当時の全女は、マキ上田さんとジャッキー佐藤さんによる「ビューティーペア」が社会現象になるほどの人気。新井さんは自ら望んでヒール(悪役)の「ブラック軍団」に加入し、スター選手らと激闘を展開した。相手レスラーの首を絞める得意技の「人間絞首刑」を繰り出すなどして、会場を盛り上げた。「ヒールは、試合展開をつくれるのが面白い。お客さんが怒りだすと、気分が乗ってくる。お店でいろいろアイデアを出すのもそうだし、ヒールが性格的に向いていた」と笑う。

 試合では荒々しいファイトを見せたが、リングを下りれば温厚な新井さん。希代の悪役レスラーとして知られる後輩のダンプ松本さんが若手時代、先輩にしごかれていたところを陰で支えたという。昨年、ダンプさんの半生を描いたドラマ「極悪女王」が話題になったこともあり、テレビ番組の企画で再会し、旧交を温めた。

 地方巡業で全国を回り、年間約300試合を戦ったことも。激しい試合で骨折も2回経験した。

 81年に引退。「レスラー仲間は、家族と遠く離れて頑張っていた同年代の子ばかり。みんなと過ごした4年間は楽しかった。でもやりきった」と回想する。

 その後、東京でのデパート勤務を経て家島に帰郷し、24歳で漁師の男性と結婚。2男4女をもうけ、今では孫が13人もいる。

 家島に戻ってからは「子育てしかしていなかった」と振り返るが、約10年前から、島内で定食店や弁当店を営んできた。「自分でできることは、人に頼らず何でもやってみようとするところがあった」。この夏、弁当店が入っていた建物のテナントが空いたことを受け、開業を即決した。

 店は、島の玄関口でもある真浦港が目の前。以前は、主に島民向けに弁当を販売していたが、これからは観光客にも目を向ける。新井さんは「子どもの頃は島が嫌で出たいと思っていたのに、今では大好きな島。だから、まずは島のお客さんにくつろいでもらい、店をかわいがってもらいたい。そして、島外から来る人も満足して帰ってほしい」と希望を語る。

 営業は午前8時~午後5時(予約があれば夜間も営業)。月曜定休。

 同店TEL080・1468・1164