亡くなった人の財産などを受け継ぐ相続。時には遺産を巡って親族間で「争続」になることもある。神戸新聞社は双方向型報道「スクープラボ」の一環で、LINE(ライン)を通じてアンケートを実施。回答を基に実例を取材した。まずは父が残した公正証書遺言の他に、亡くなってから自筆の遺言が出てきた人のケースを紹介する。(斉藤正志)
■兵庫県の50代女性、生前の父から「安心しなさい」
兵庫県内の50代女性は、離れて住む父から、金融機関の遺言信託を利用し、公証役場で公正証書遺言を作っていることを聞かされていた。
父は、自身の死後に女性がきょうだいと遺産を巡ってもめないように、「きちんとしているから安心しなさい」と言われていた。
その後、父が死去。初めて見た遺言書は、現金や土地・建物を、きょうだいでほぼ均等に分ける内容だった。
父は子どもたちの円満を望み、「末永く、仲良く幸福に過ごしてくれることを願っています」と書いていた。
■公正証書遺言を覆す内容
しかしその後、女性のきょうだいの代理人と名乗る弁護士から、電話がかかってきた。
「直近の自筆の遺言書がある」
女性は言葉を失った。
父は生前、資産状況が変わって公正証書遺言を書き直したことを話してくれるほど、まめに情報を伝えてくれていた。
それだけに女性は、存在を知らない自筆証書遺言があったことに、あぜんとした。
届いたコピーを見ると、公正証書遺言の内容を覆し、女性のきょうだいに遺産を多く配分することが書かれていた。
公正証書遺言にあった子どもたちの円満を望む文章は、自筆証書遺言には記されていなかった。
不自然に感じたが、遺言書としての要件を満たしており、実印を押してあった。
公正証書遺言よりも日付が近いため、自筆証書遺言の方か有効になるという。
■有効性に疑問、裁判も検討したが…
父は晩年、認知症の症状があった。
なぜ公正証書遺言を書き直さず、新たに自筆証書遺言を書いたのか。
あれほど子どもたちの今後を気に懸けていた父が、なぜ自筆証書遺言にはメッセージを残さなかったのか。
そして、本当に父が自分の意思で書いたのか-。
女性は弁護士に相談したが、「遺言の有効性は裁判で争えるが、大変な労力と時間がかかる」と言われた。
女性は「遺言には疑問があるが、父も子ども同士が争うのを望んでいないと思い、裁判を起こすのは見送った」と話す。
その後、きょうだいとは全く話しておらず、疎遠になっているという。
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