神戸が世界に誇る柔道兄妹は、パリ五輪で2大会連続の同日金メダルを逃すも、男子66キロ級の阿部一二三(26)=パーク24、神港学園高出身=が「兄として、絶対に妹の分までやりきる」と2連覇を飾った。女子52キロ級2回戦で敗れ、泣き崩れた阿部詩(24)=パーク24、夙川高出身=がスタンドで見守る中、兵庫県出身者では個人、団体を通じて初の2個目の金メダル獲得を演じた。
■「プレッシャーに負けた」
前回女王は兄の準決勝前、足を運べていなかったミックスゾーン(取材場所)に現れ、心境を明かしていた。
開始2分過ぎ。内股で技ありを奪ってリードしたが、50秒後、世界ランキング1位のウズベキスタン選手の谷落としに屈して一本負け。「『もう1個』を取り急いだ」と強引に攻めたことでバランスを崩した。「投げ感がすごくある」と警戒していた相手に背中から落とされ、「負けた瞬間は自分を保つことができなかった」と声を落とした。
五輪特有の緊張感に襲われていた。「絶対に勝ちにいかないといけない…」と話すと、目線を下げたまま10秒ほど沈黙。「プレッシャーに負けてしまった」と言葉を振り絞った。
試合後に泣きじゃくる中、柔道大国フランスの大観衆の声援は聞こえていた。「ウタ」「ウタ」と叫ぶようなエールに、「本当に温かい応援。誰もが経験できない舞台だと改めて感じた。しっかり金メダルを取れる強さを身につけたい」と取材対応を終えた。
■「妹の分まで戦い抜く」
一二三は詩の後悔を力に変えた。「ああいうことが起きる。妹の分まで最後まで戦い抜くと覚悟を決めた」。東京五輪の日本代表争いで磨き上げた鋼の心をさらに強くした。
語りぐさになっている丸山城志郎(30)=ミキハウス=との死闘だ。6試合分に相当する24分間の代表決定戦を制し、2年以上の争いに終止符を打った。「プレッシャーに押しつぶされそうな日もあった。気持ちの強さは誰にも負けない」。パリでも難敵を次々と下し、国際大会の連勝記録を「50」の大台に載せた。
東京五輪は、新型コロナウイルス禍による無観客開催だった。肉親ですら会場に入れなかったが、今回は父浩二さん(54)、母愛さん(52)らの観戦が実現し、目の前で栄冠を勝ち取った。
一二三はメダリスト会見で両親について聞かれると、「シンプルに『ありがとう』と伝えたい。一緒に戦ってくれたので」と、「チーム阿部」の結束に感謝した。詩の今後にも言及し「『一緒に前を向いてやっていこう』と声をかけたい」と兄の顔を見せた。(有島弘記)