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 政策協議を続けてきた自民党と日本維新の会が、新たな連立政権の樹立で合意した。これを受け、自民の高市早苗総裁がきのう開幕した臨時国会で首相に指名され、新内閣が発足した。第104代にして、憲政史上初の女性首相の誕生である。

 公明党の連立政権離脱で衆参両院の過半数が遠のいた自民と、党勢低迷にあえぐ維新の思惑が一致した。しかし自民と維新が連立しても衆参ともに過半数に届かない。維新は閣僚を出さない「閣外協力」にとどまり、政権運営の責任を担う覚悟があるのかはまだ見通せない。少数与党の不安定さは続く。

 参院選後の「政治空白」は3カ月に及び、物価高対策など課題は山積している。急速な人口減への対応、持続可能な社会保障の構築、揺らぐ国際秩序などの難局を乗り切るには政治の安定が欠かせない。

 何よりも新首相には派閥裏金事件で失墜した政治への信頼を取り戻す責務がある。政権の目指す社会像を明確にし、幅広い合意形成を図る丁寧な政権運営に努めねばならない。

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 連立合意は政策協議を経て、わずか1週間ほどでまとまった。

 維新は自民に対し、東京一極集中を是正し災害時に首都機能をバックアップする「副首都構想」など12項目の政策実現を要求し、高市氏はその大半を受け入れた。ただ自民党の従来の主張とは隔たりのある内容も含まれている。合意ありきの協議だったのではとの疑問が残る。

 維新が「連立の絶対条件」とした国会議員定数の1割削減はあまりにも唐突な印象だ。「臨時国会での成立を目指す」と前のめりだが、選挙制度は民主主義の根幹に関わる。比例代表を減らせば少数派の声が、小選挙区なら地方の声が届きにくくなる。一部の政党だけで結論を出してよい問題ではない。拙速を避け、与野党で十分に議論する必要がある。

■裏金問題は先送り

 看過できないのが、裏金事件に象徴される「政治とカネ」を巡る問題がうやむやにされかねないことだ。

 国政選挙での相次ぐ与党大敗は、自民が裏金問題を軽視し、全容解明や再発防止に後ろ向きな姿勢が国民の不信を招いた結果だ。維新は企業・団体献金の禁止を訴えており、先の参院選でも温存を図る自民を厳しく批判していた。にもかかわらず、「高市氏の総裁任期中に結論を得る」と先送りを容認した。自民との安易な妥協や追随は許されない。

 「政治とカネ」に甘い自民の姿勢は、公明が連立離脱を決めた直接の要因でもある。自民が議員定数削減に応じたのは、企業・団体献金の規制強化から論点をずらす思惑があると見られても仕方ない。自民が「解党的出直し」に値する抜本改革に踏み込まなければ、政治不信の解消はおぼつかない。

 だが、高市氏が「出直し」にどこまで本気かは疑わしい。それが露呈したのが党役員・閣僚人事だ。

 総裁選で争った小泉進次郎氏、林芳正氏、茂木敏充氏を重要閣僚に処遇し、小林鷹之氏も党政調会長に起用した。挙党一致体制を印象づけようとの狙いがうかがえる。

 だが、内閣の顔触れは党役員人事に続いて論功行賞の色合いが濃い。高市氏が積極登用に意欲を見せた女性は2人にとどまり、いずれも総裁選で高市陣営についていた。

 高市氏は「全世代の総力結集」を強調するが内向きな姿勢が際立つ。

■求められる対話力

 懸念されるのは、公明の離脱で自民が保守色を一層強める展開だ。維新との政権合意には安全保障関連3文書の前倒し改定や、憲法9条改正などが盛り込まれた。与野党の対立がさらに激化し国民生活が置き去りにされる事態は避けねばならない。

 高市氏が優先すべきは政治空白を一刻も早く埋めることだ。物価高対策の裏付けとなる補正予算案が臨時国会の焦点となる。

 高市氏は以前から積極的な財政出動を主張し、経済対策の財源として「赤字国債の発行もやむなし」などと言及している。インフレ圧力が高い現状では、野放図な財政膨張は物価高を助長する。

 維新が求める食料品の消費税率を2年間ゼロにする案も社会保障財源への影響など慎重な検討が要る。ガソリン税の暫定税率は年内廃止で与野党が合意しているが、代替財源の確保は不可欠だ。

 多党化が進む中では、野党の協力が得られなければ政策は実現できない。新首相には指導力とともに、異なる意見に謙虚に耳を傾ける対話力が求められる。