痛み止めの湿布を貼り続けた痕が、肩や背中に残っている=神戸市内
痛み止めの湿布を貼り続けた痕が、肩や背中に残っている=神戸市内

 乗客106人が亡くなった尼崎JR脱線事故では、493人が重軽傷(神戸地検調べ)を負った。先頭車両に乗っていた伊丹市の男性会社員(38)は背骨を折り、今も痛み止めの湿布が手放せない。一日が終わり、そっと湿布を剝がす。事故からの歳月と同じだけ貼り続けた痕が肩や背中にくっきり残る。

 事故のあった2005年4月25日は大学に入学したばかりだった。搬送された病院で1カ月間は寝たきりに。退院後も出遅れた学生生活に焦り、通院に気が沈んだ。しかし目標通り4年で卒業し、就職を機にJR西日本と示談した。事故を吹っ切りたかった。

 結婚し、子どもを授かる。家族と過ごす何げない日々に幸せを感じる一方で、桜の季節になるとそろそろかとも思う。今も痛みは消えない。いつか元に戻れるかもしれない、と思っていた。でも年月を重ねるに連れ、それはかなわないことだと悟った。

 「僕にとっては付き合っていくしかない過去の事実だと思っている。それもまぁ、そうやって自分に言い聞かせているだけかもしれませんが」。痛みをごまかしながら暮らす日々はもうすぐ20年になる。(大田将之)