彼にはまだ、双極性障害のことは伝えていません ※画像はイメージです(buritora/stock.adobe.com)
彼にはまだ、双極性障害のことは伝えていません ※画像はイメージです(buritora/stock.adobe.com)

「30代、女性です。数年前に双極症2型と診断されて心療内科に通院しています。最近はお薬と定期的なカウンセリングで症状は安定しています。仕事は調子を崩すことがありつつも、なんとか続けています。以前、マッチングアプリで知り合った方と何度か食事などしてデートしたのですが、先日、彼から付き合ってほしいと告白されました。しかし彼にはまだ、障害のことは伝えていません。きちんとお付き合いを始める前に、自分の障害についてきちんと伝えるべきか悩んでいます…」

双極症2型(双極性障害2型=そうきょくせいしょうがいにがた)は、軽躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患です。1型より躁の症状は軽い一方で、うつの期間が長く続くことが多く、生活や仕事に影響を及ぼすことがあります。治療や心理的サポートで症状を安定させることが大切です。

精神疾患や内部障害のような「目で見てわからない障害」を抱える人にとって、どんなシチュエーションでも、その障害を人に伝えることは、大きな葛藤の一つです。特に恋愛相手などには、なおさらです。

■どうしてカミングアウトする・しないで悩むのか?

他人から見て明らかに「障害者である」と分かりづらい場合、その当事者が障害のことをカミングアウトするには様々な葛藤があります。具体的には、下記のような葛藤を抱く方が多いです。

不安と不確実性

最も大きな要因は、相手の反応に対する不安です。ご相談者様のような双極症に対する認知は向上しているとはいえ、まだ誤解や偏見が完全に払拭されたわけではありません。

「もし、病気を理由に離れていってしまったらどうしよう」という”せっかく良いご縁があったのにその関係を失うリスクを避けたい”と考えるのは自然なことです。また、病気について説明しても、正しく理解してもらえないのではないか、あるいは過剰に心配されたり、腫れ物に触るように扱われたりするのではないか、という懸念もあります。

自己評価とスティグマ(社会的な偏見・差別)

双極症は病気であり、健康な人々とは異なる状態であるという自己認識が、「自分は普通ではない」「相手に負担をかけるのではないか」という感情に繋がり、カミングアウトを躊躇させる要因となることがあります。

また、精神疾患には未だにスティグマ(社会的な偏見や差別的な見方)が存在します。カミングアウトすることで、相手から「病気の人」というレッテルを貼られることへの抵抗感や、将来的な関係性や社会生活に影響を及ぼすことへの懸念もあるでしょう。

相手への配慮

相手を大切に思う気持ちがあるからこそ、自身の病気についてカミングアウトすることで、余計な心配や負担をかけてしまうのではないか、という優しい気持ちがあるかもしれません。

さらに、せっかく育ち始めた良い関係を、自身の病気という「重い情報」で台無しにしたくない、という思いもあるでしょう。

タイミングの難しさ

「いつ」開示するのかというタイミングも、重要な点です。早すぎるカミングアウトは、相手が情報を消化しきれずに”引いて”しまうかもしれない、という不安があります。

逆に遅すぎるカミングアウトでは、相手が「なぜもっと早く言ってくれなかったのか」と感じ、信頼を失う可能性がある、という懸念もあります。

■カミングアウトする・しないのメリット・デメリット

カミングアウトすることが、必ず正しいとかメリットが多い、ということはありません。逆もしかりです。自身にとって、カミングアウトすることにどんな意味があるのか、またどんな影響があるのかを、少し俯瞰で見て考えてみることも必要でしょう。

カミングアウトしないことの影響として、自身の状態を隠し続けることを「罪悪感」として受け止めてしまい、精神的なストレスになる可能性が高いでしょう。一方で一般的な恋愛関係と同様に、関係性を自然に進展させることができる可能性もあります。

またカミングアウトした場合、もし相手が受け入れてくださらなかった時には大きな喪失感となり、恋愛に対する否定的な経験として記憶に残ってしまいます。逆に相手が受け入れてくださった場合、それは深い絆となり、長期的な関係性を築くうえでの強固な礎にもなり得ます。

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自身の中で「この部分ってマイノリティだな」と感じていることを誰かにカミングアウトすることは、大きな葛藤を生じさせます。何が正解で何が不正解かという基準はなく、自身でそのメリットやデメリットを天秤にかけて判断するしかありません。そんな時この状況を「冷静で客観的な視点で考えてみる」ことが必要かもしれません。

【監修】阿部里美(あべ・さとみ)社会福祉士 宅地建物取引士 B型作業所「ぺんぎんクリエイツにて職業指導員として、福祉の現場に立ちながらディレクションを行う。地域福祉やまちづくりの分野においても実務経験を有する。異色の経歴として、インタビュー専門ライター、現代美術館にて英語・韓国語を用いたギャラリーガイドなど。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)